514 これで、気楽に動ける
甚九郎(佐久間信栄)と共に京へ戻ると、そのまま殿の許へ向かう。
殿も忙しいだろうから暫く待たされるかと思ったが、あっさりと殿の許へ通される。
そこには殿の他に、京の責任者である村井民部少輔(貞勝)殿と、なんちゃって筆頭家老の林佐渡守(秀貞)殿が居た。
民部少輔殿が居るのは分かるが、佐渡守殿は何故ここに居るんだろう?
いや、一応筆頭家老なんだから居ても何の不思議もないんだが、この人とは新年の挨拶とか宴会で会うだけのお偉いさんといった感じで、あまり俺と接点がないんだよなぁ。
まだ戦場で会う分、婿養子の新次郎(林通政)殿の方が馴染みがある。
本来の歴史なら佐渡守殿は京に居る事も多い筈なのだが、何故か殆ど岐阜や尾張で留守番をしているから会う機会が殆どないんだよな。
まあ、佐渡守殿に気を取られても仕方ないので、サクッと殿に大和国の事を報告して帰ろう。
甚九郎がメインで話して俺が補足する形で報告する。
「で、傳兵衛。本当のところは?お主は何処まで関わっておる?」
甚九郎の無難な報告に納得がいかなかったのか、殿は俺を見て本当の事を言えとばかりに尋ねてくる。
失敬な。
しかし、見れば殿だけでなく民部少輔殿と佐渡守殿も疑わしげに俺を見ている。
いや、民部少輔殿には尻拭いをさせてしまう事がごく稀にだがあった事は否定出来ないので仕方がないとしても、佐渡守殿は俺と殆ど接点がないやろがい!
「某は何も関わってなどおりませぬ。敢えてと言われれば、十市常陸介(遠長)に越智家の騒動に気を付けろと助言した事くらい。流石にこの様な大事が起ころうとは思ってもみぬ事態に御座る」
本当だからね。
こんなに早く越智家で騒動が起きるなんて思ってもいなかったからね。
「お主が常陸介や伊予守(越智家増)を唆して、事を起こさせたのではあるまいな?」
「誓ってその様な事は御座いませぬ!」
俺のこの澄んだ瞳を見て!
嘘偽りのない綺麗な瞳でしょ?
「まあ、嘘を申しておる様にも見えませぬ。常陸介に越智家の噂を流したのは軽率やもしれませぬが、いくら兵部少輔殿でもこの様に事が運ぶなどと分かる筈もありますまい」
冤罪を掛けられそうになっている俺を見かねて、佐渡守殿が庇ってくれる。
有り難う佐渡守殿!
なんちゃって筆頭家老とか思ってごめんなさい。
「ふむ、流石の傳兵衛でも人の心までは読めぬか」
殿がニヤリと俺を見る。
当たり前でしょ!
人が何を考えているかなんて分かる訳がない。
けど、史実で配下の者に裏切られまくる殿に、人の考えは読めないのかとか嫌み言われたくないね!
特大ブーメランを食らわせてやりたいよ!
やらないけど。
「まあ良い。大和国での事はそれで良い」
それで良いというか、本当の事だからそれしかないんだけど、何か納得のいかない事でもあるんすか?
「それから、傳兵衛よ」
「はっ!」
「一条殿の土佐国への下向に、儂の名代として佐渡守も供をする」
えっ?佐渡守殿も土佐に向かうの?
じゃあ…不始末があったとして責任取るのは佐渡守殿?
「承知致しました」
「道中は頼みましたぞ、兵部少輔殿」
佐渡守殿は道中を頼んだと言っているのは、一条家との交渉は俺がやるから、お前は口出しするなって事だな。
オッケーで~す。
やったね。
これで、気楽に動けるな。




