513 甚九郎
やっと大和国での用事を終えて京へ戻ることが出来る。
後詰めとしてやって来た右衛門大夫(佐久間信盛)殿は、大和国に残って霜台と共に後始末に追われる事となった。
御苦労です。
殿への報告という重大任務を果たさねばならない俺は、京へ戻らなくてはならないので、お付き合い出来ません。
仕方ないんだ。
当初は右衛門大夫殿の嫡男である甚九郎(佐久間信栄)が報告へ向かうという話だったが、甚九郎では細かい話が説明出来ぬと抗議して、俺も甚九郎と共に京へ戻る事になった。
重大任務を任された甚九郎には悪いが、適当な報告をされては敵わないからな。
何故かは知らないが、今回の騒動では俺が暗躍して越智家の騒動を利用して筒井家を釣り出したとか、十市遠長を使って越智家増に甥の家高の暗殺を唆したなんて根も葉もない噂も出ているし、濡れ衣を着せられるのは断固阻止しないと。
甚九郎では史実の事もあって正直心許ないしな。
しかし、元々は和泉国に居る三好義継に会って、淡路島周辺の海を根城にしている安宅水軍を紹介してもらうだけの筈だったのに…
まあ無事に終わった事だし、収穫もあったので良しとするか。
年の瀬も差し迫った今、これ以上厄介事がやって来る事もないだろう。
後はのんびりと正月を迎えさせてもらおう。
「甚九郎、息災であったか?芸事に傾倒して、武を疎かにはしておらぬな?」
甚九郎は、史実で茶に傾倒して親子共々織田家を追放されているので、要らぬお世話だとは分かっているが、ついつい釘を刺したくなる。
「問題御座いませぬ。毎日鍛練も欠かしてはおりませぬよ」
甚九郎は気楽な様子で頷いている。
心配だ。
親同士が仲が良いので、甚九郎とは話す機会は多い方だ。
しかし、些かフワフワした印象で本当に理解しているのか不安を覚える。
「殿は、地位に見合った働きをせぬ者に厳しい。お主は次席家老の嫡男として、常に殿より厳しい目で見られておる。茶道を修めるのはかまわぬが、武を疎かにしたと見られれば、殿は容赦なくお主を処断致すぞ。努々忘れるなよ。儂は友が処断されるところなど見たくはないぞ」
友かどうかは知らんけどな。
まだ茶道に傾倒するまでには至っていないみたいだが、コイツは信用出来ない。
俺は佐久間家を追い落とそうとか考えてないし、況してや没落なんて望んでない。
清須会議があったとしても重臣が一致団結して織田家を盛り立てていける様に、間違っても賤ヶ岳の戦いなんて内戦が起こらない様にしたいだけなんだ。
頼むぞ甚九郎。
会う度に武を疎かにするなと言っているせいで、甚九郎には脳筋だと勘違いされているかもしれないが、佐久間家の為だし不本意だが誤解を解くのは諦めよう。
俺から次席家老の右衛門大夫殿に忠告なんて出来ないし、お前だけが頼りなんだ!
例え右衛門大夫殿が不興を買ったとしても、甚九郎が確りとしていて殿に気に入られていれば、代替わりして佐久間家の存続させる事は可能だろう。
佐久間家の命運はお前が握っているんだからな!
確りしてくれよ!
「そうだ!兵部少輔殿は霜台より平蜘蛛を拝見する事が叶ったとか。如何で御座ろう、霜台も招いて我等で茶会を開くというのは?その際、霜台に平蜘蛛を御持ちいただければ…」
うん、駄目かもしれん。




