509 無下に扱ったりはしないから
才蔵(可児長吉)、新助(加治田繁政)、又蔵(木村正勝)と柳生新次郎(厳勝)が、襲ってきた敵兵を逆に襲っていく。
流石に槍は振り回しづらいので刀で戦っているのだが、流石にウチの脳筋共を殺れそうな奴等は見当たらないので大丈夫だろう。
油断や慢心していれば知らんが、それは自業自得だろう。
俺の前には新八郎(仙石久勝)と権之進(野中良平)が立ち塞がって、俺が敵へ攻撃しようとするのを妨害している。
…いや、敵からの攻撃を防いでくれてるんだけどね。
流石にこいつ等に殺られたりはしないとは思うが、俺が下手を打って怪我する可能性がないとは言えないから良いんだけど…
まあ、皆のストレス発散になるなら構わんか。
この後の事を考えると叩き伏せるに止めて、あまり死人を出さないで欲しいのだが…
だんだんと倒されていく敵を横目に、井戸十郎が逃げ出さない様にそちらから顔を逸らさない。
数で押せばイケると思っていたのだろう、十郎は腰が引けている様に見える。
このまま粘っていれば何れは勝てそうだが、俺は何もさせてもらえないので飽きてきたな。
十郎の周りの護衛をどうにかして、十郎を確保すれば敵も刀を引くかな?
そんな事を考えていると、敵の伝令らしき者が大慌てで此方へ走ってくる。
「十郎様!大変に御座います!豊田道見入道により城門が開け放たれ、敵兵を城内へ引き入れております!」
伝令が十郎に豊田道見とやらの裏切りを知らせに来た事で、敵に動揺が走る。
豊田って事は、ここに来る時に一服した豊田城の関係者かな?
ダメ元で裏切れと叫んでみたが、言うだけ言ってみるもんだな。
十郎達も狼狽して、集中力が削がれているみたいだな。
城に突入してくる味方に指示を出さないといけないし、ここらで終わりとするか。
「新八郎、権之進、十郎の周りを抑えよ」
「はっ!」「承知!」
2人に十郎から護衛を剥がさせて、十郎を狙わせてもらおう。
「さて十郎殿、この辺りで幕引きと参ろう」
「おのれ!」
自棄になった十郎が刀を振りかぶって襲いかかってくる。
今まで戦ってきた相手に比べるべくもない腕前なので、楽勝で相手の腕に刀の峰を叩き込み、痛みで刀を落とし前屈みになっている十郎の顎に掠る様な拳を叩き込む。
腕を峰打ちした時に骨が砕ける様な感触があったが、まあ問題ないだろう。
「十郎の命が惜しくば刀を捨てよ!」
上手い具合に脳震盪を起こして倒れてくれた十郎の背を踏み、首筋辺りに刀を突き付けて周りの敵に降伏を呼び掛ける。
流石に十郎を見捨てる事は出来ず、残っていた敵は刀を捨て降伏する。
味方の兵が城内に入り城を制圧すると、井戸家を裏切りこちらに味方した豊田道見というオッサンと話す。
「さて、豊田道見と申したか」
「はっ!」
些か不安な面持ちで返事する道見。
俺の誘いに乗ったとは言え、皆から冷ややかな目で見られているからな。
「開門御苦労であった。儂等に味方してくれた事は、よくよく霜台に伝えておく。流石に元の所領をとは確約出来ぬが、相応の所領は得られよう」
「有り難う御座いまする!」
どうなるかとビクビクしていた道見は、安堵の息を吐く。
俺が誘ったのに無下に扱ったりはしないから安心しな。
俺はね。
霜台がどうするかまでは知らんけど。




