507 お届け物です
明るく燃える福住城の明かりを頼りに山道を西へ向かう。
これだけ周囲が明るければ俺達が移動している事は、敵にバレている事だろう。
なので堂々と明かりを灯して街道を走り抜けていく。
途中、霜台が攻め落とした豊田城で一服した後、山間部を抜けると目標の井戸城が見えてくる。
井戸城の城主は、井戸良弘という筒井家の重臣みたいなポジションにいる、大和国では有名な武将だ。
筒井順慶が死ぬまでは筒井家に従っているし、何より順慶の姉を娶っているので、多分寝返らないとは思う。
霜台に娘を人質に出しておきながらも、順慶に従い松永家と敵対して娘を殺されたりもしているしな。
しかも2回も…
まあ良弘は今、順慶と共に越智城に出向いている筈…多分。
誰が井戸城の留守番してるんだろうかねぇ。
「赤穂森家家臣祖父江勝之助に御座る!主君兵部少輔が城主井戸若狭守殿に話があり、その先触れとして参った!開門されたし!」
祖父江政秀に先触れとして城門前で名乗りを上げさせる。
俺が行って弓矢で射たれたりすると嫌だからね。
さて、勝之助はどうなるかな?
「若狭守の嫡男の十郎に御座る。今、父は不在故、御引き取り願いたい」
良弘の嫡男を名乗る若武者が勝之助を追い返そうとする。
ふむ、矢の雨は降らなかったか。
最悪のケースとはならなかったようだ。
「ならば待たせていただこう」
「いや、何時戻るとも知れませぬ。一旦御帰りを」
暫く2人の「入れろ」「帰れ」の応酬が続く。
「ところで、若狭守殿はどちらへ?まさかとは思うが大樹の意向に背き、大樹より大和国を任されておられる霜台に弓引く事はしておられぬであろうな?」
埒が明かぬとばかりに勝之助が良弘を責める様な発言をする。
「…」
沈黙が帰って来たという事はそういう事なのだろう。
予想通り順慶と共に越智城に居るのは確定で良いだろう。
「まあ待たれよ、勝之助殿」
決裂しそうな雰囲気なのを見て、柳生新次郎(厳勝)が勝之助を助けに入る。
別に決裂したらしたで、ウチの脳筋共が喜ぶ様な展開になるだけなので、どっちでも良いんだが、新次郎は出来るならば円満解決を目指したいらしい。
自分も脳筋のクセに…
「十郎殿、兵部少輔殿は霜台の預かっておられた貴家の姫を送り届けに参ったのだ!どうか門を開けていただきたい!」
「なんと!」
新次郎の言葉に驚きを隠せない十郎君。
まあ、霜台へ人質に出してた妹が、今回の事で絶対殺されると思っていたのに帰ってくるとは思わんよな。
新次郎がこっちに顔を向けてきたので、城から見える位置に娘を連れてくる。
「少々御待ちいただきたい!」
慌てて奥に引っ込んだ十郎君。
恐らく大慌てで皆と相談でもしているんだろう。
俺達を城に入れたくはないけど、妹を助けられるチャンスはここしかない。
入城を拒否すれば目の前で殺されるとか思っている事だろう。
良弘の恨みを買いたくないから、俺は殺さないけどね。
暫く経って十郎君のだした条件は、俺と新次郎、それに護衛が5人だけなら入って良いという事だった。
本来なら失礼な事なのだろうが、俺はそれを快諾して、井戸家の娘と新次郎、護衛の加治田新助(繁政)、可児才蔵(長吉)、仙石新八郎(久勝)、野中権之進(良平)、木村又蔵(正勝)を連れて城内へと入る。
城に入ってしまえば、こっちのもの!
火付け虐殺は御手の物よ!
ふん、ウチの脳筋共を甘く見るなよ。
こいつ等が討ち取られるまでに何れ程の犠牲が出る事やら。
そして俺はコイツ等を囮にして逃げきってみせる!




