506 ウチの十八番
「霜台、福住城へ向かった後は好きに動いて良いので?」
今回の出陣の目的は、福住城を脅かす事によって越智城に向かった筒井順慶に揺さぶりを掛ける事だ。
筒井順慶の今の居城が福住城だから、そこに敵兵が現れたと知らせを受ける事で、順慶の動揺を誘おうという事だが、動揺するかな?
城主の福住順弘は順慶の叔父だし、無視する事は出来ないかもしれないが、所詮仮の拠点だしなぁ。
それはさておき、俺の仕事は福住城に残っている奴等に、順慶へ知らせを送らせる事のみ。
その後は俺の好きな様に動いて良いのか、それとも何もするななのか。
「無論。その後の動きは兵部少輔殿に御任せ致す。兵もそのまま率いてもらって構いませぬ」
成る程…じゃあ、どうしようかな?
それから霜台に戦に必要なものを調達してもらわないと。
そんな積もりで、ここに来てないしな。
霜台と打ち合わせを行った後、多聞城に戻り雲林院松軒がやって来るのを待ってから 福住へと向かう。
福住城周辺には勿論筒井家に味方する城もあるのだが、全部無視!
最速で福住へ向かい、この辺りに詳しい山口秀勝のお陰もあって日が沈む頃に何とか福住城近くまで辿り着く。
さて、大軍に襲われていると順慶の耳に入る様にド派手に攻めたいのだが…やっぱり夜襲ですな。
けれど、どうせ敵は城に篭って出てこないだろうし。
となれば、当家の十八番を使うしかない。
「新右衛門(岸隆貞)、才蔵(可児長吉)、新助(加治田繁政)、新八郎(仙石久勝)、権之進(野中良平)。夜陰に紛れて城に火を掛けて参れ。城を焼く必要はないが、城内の奴等が慌てる程度には派手にな」
伊勢攻め以前から仕えている古参達は、火付けも得意となっている。
延暦寺を燃やす為に皆で色々と火の付け方の研究や実践を繰り返してきたからな。
この5人も当然、何処に出しても恥ずかしくない一流の放火魔達だ。
「「応!!」」
5人は自信たっぷりに返答する。
調子に乗って火を掛けまくった挙げ句、山火事なんかを起こしたりするんじゃないぞ!
「兵部少輔殿、此方も用意が整いましたぞ」
山口秀勝も準備が終わったのか、こちらへやって来た。
「では、城に火が付き次第、松明を灯して此方の兵数を誤魔化しつつ鬨の声を上げ、城へ降伏を呼び掛ける。六郎四郎(山口秀勝)殿、頼みましたぞ」
取り敢えず山口秀勝に松明を大量に灯させて兵数の嵩増しをして、敵の危機感を煽りましょう。
火の手が上がったうえに、鬨の声まで聞こえれば、周辺の城に居る誰かが順慶に知らせを送るだろう。
まあこれで、最低限の仕事はしたかな。
放火魔5人組が無事に役目を終えて戻ってくると、城内はパニックになっている様だった。
城主は出陣して不在ではあるし、残った兵達に軟弱者めと言うのは少し酷か。
「では、六郎四郎殿、後の事は御任せ致す」
「御任せくだされ!兵部少輔殿も御武運を!」
仕事は終わったので、この後は遊びの時間だ。
福住城は地理の明るい山口秀勝に任せて、柳生宗厳と共に次の現場へ向かう。
松明が大量に灯っているので、朝までなら小勢である事がバレる事はないだろう。
多分城から出てこないだろうしな。
「新左衛門(柳生宗厳)殿、霜台より例の者は?」
「恙無く。連れて参っております」
霜台には次の城攻めで役立つからと、霜台が人質としている娘を一人借り受けた。
本当に役立つかは知らんけど。
「では皆、急ぐぞ!目指すは井戸城!京より後詰めが参れば我等は御役御免となる。その前に城を落とさねばならぬぞ!」
「「応!!!」」
連戦上等のウチの家臣共は、夜中だというのに元気だねぇ。




