501 大和で一番欲しい人材
十市城を出て霜台の居る信貴山城へ向かわない訳にはいかないので渋々向かうのだが、その前にちょっと寄り道。
霜台の居る信貴山城と筒井順慶の居る筒井城の間に位置する西宮城へと向かう。
今の西宮城の城主は、島清興。
三成には過ぎたる者と言われたのが島左近こと島清興だ。
筒井順慶の元服から彼を支えてきた様な印象のある左近だが、実際に筒井家に仕えたと確認出来るのは1583年の事で、それ以前は分からない。
少なくとも重臣の位にはいないらしい。
1571年の辰市の合戦には参加していたという話もあるが、その頃は松永久秀側にいたという様な話も聞いた事がある。
どっちか分からないなら訪ねて確認してみよう。
左近が所領の場所への執着がないのならスカウトしたいしね。
まあこの時代、先祖代々の受け継いできた土地への執着がない方が珍しいのかもしれないけど。
「これは、織田家の森兵部少輔殿が御越しとは…」
左近は、突然俺がやって来た事に警戒している様だな。
「大和国に来たならば、左近殿には是非とも会うてみたかったのだ」
初めましての人には結構同じ様な事を言っている気がするが、左近の場合は割りと本気だから問題ないな。
「某に会いたかったと?」
「左様、是非とも左近殿の知己を得たいと常々思うておったのだ。まあ、欲を申せば、召し抱えて備前国へ連れて帰りたいと思うておるのだがな」
「それは御断り致す」
俺の勧誘にも左近はキッパリと断りを入れる。
まあ、断られるんだろうなとは思っていたけど。
「であろうな。儂も今ある所領を捨てて来いとまでは言えぬ。霜台も陽舜坊(筒井順慶)殿も左近殿程の者を易々と手放しはすまい」
「その様な事は…」
「儂ならば左近殿に五千…いや、万石与えても惜しくはない」
「某にそこまでの評価をいただけるとは、何故に御座ろう?」
うん?評価されて嬉しいのかな?
確かに今は重臣の地位にないから、内心不満に思っているのかもしれないけど。
「儂は人を見る目に長けておると評判でな。もし大和国にて、地位や生まれに囚われず誰でも一人配下に加えて良いと言われれば、儂は迷わず左近殿、お主を選ぶ。お主には不快に聞こえるやもしれぬが、お主は決して松永家と筒井家の争いの様な小さな戦にかまけておって良い人材などではない。三好や大友、毛利、武田等を相手に天下を競う大戦にこそ、その才を活かすべき者だと儂は思うておる」
どうだい?有名武将相手にその才能を生かしてみないかい?
「有り難い御言葉なれど、今は大和国を離れる気にはなれませぬ」
ですよね~。
「であろうな、無理強いしたところで良い結果にはならぬ。此度は諦めるとしよう。しかし、事が落ち着いたならば、霜台でも陽舜坊でもなく儂の所へ来い。史書にお主の名が残る様な戦場を約束しようぞ」
多分西国でも大きな戦いはあるだろうし、ウチも大戦に巻き込まれる事もあるだろう。
俺は嫌だけど。
「その様な事になれば、その時は宜しく御願い致します」
まあ、家臣に加える事が出来るとまでは思ってなかったし、今回はこんなもんでいいか。
あっ、そうだ!
「左近殿、お主の子を儂に預けぬか?」
「それは…」
左近は、俺が子を人質に取りたいと言っていると思ったのだろう。
ビクリと体を震わせる。
「ああ、別に質に取ると言っておるのではないぞ。儂は織田家の者故、はっきり申して霜台が勝とうが陽舜坊が勝とうが、どちらでも構わぬしな」
「ならば何故?」
「陽舜坊等の思惑が外れ、霜台の兵は想定よりも減ってはおらぬ。争えば互いに大きな被害となろう。お主がどちらへ味方するかは知らぬが、どちらへ味方しようと苦しい戦いになろう。万が一を考えて、子を遠方へ遣る事は家を守る事に他ならぬ」
「それは確かに」
「何も元服を終えておる者を寄越せとは言わぬ。子が一人でも安全な所に居れば、お主も存分に戦えよう。そうなれば生き延びる事も出来ようて」
「御心遣い忝ない」
あれ?良い感触?
自分の事を引き抜こうとするのなら断るけれど、息子の事なら一考の余地ありですか?
「お主の子を預かっておれば、お主も儂の言葉を忘れぬであろう?そういう意味では質と変わらぬか」
それで島左近が手に入る確率が上がるなら喜んで!
「では、嫡男の新吉を」
えっ?嫡男渡していいのかよ。
「嫡男を儂に預けては周りの者達から色々と言われよう。本当に嫡男で構わぬのか?」
「はっ、兵部少輔様の御厚意に応えるまでに御座る」
重っ…




