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討ち死になんて勘弁な  作者: 悠夜
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500 十市常陸介

 坊主の魔の手から逃れ、目的の十市城へと向かう。

 興福寺に兵を出さない様に頼めれば良かったのだが、興福寺の偉いさんに伝手のない俺にはまあ無理だったろう。

 第一、僧が人の言う事を聞く訳がない。

 という事で、とっとと興福寺を出て十市城へ。

 先月亡くなった先代の十市遠成の娘は人質として霜台の許に居るので、十市城に居るのは遠成の後室と十市遠長だ。


「御初に御目にかかる。織田家家臣、森兵部少輔に御座る」


「城を取り纏めております十市常陸介に御座います。誠に申し訳ない事ながら只今御方様は信貴山城へ出ておりまして、某が留守を預かっております」


 城では後室ではなく、遠長の方に出迎えられる。

 どうやら後室は霜台に会いに信貴山城へ向かったらしい。

 でもまあ、松永派の後室じゃなくて、筒井派の遠長の方と話したかったので問題ないな。


「いや問題御座らぬ。常陸介殿とは一度会っておきたいと思うておったのだ」


「某に御座いますか?」


 俺の言葉に遠長は怪訝そうな顔をする。

 まあ、後室ではなく常陸介の方に会いたかったと言われればそうなるよね。


「左様。先代が亡くなられて多少なりとも御家が騒がしかろう?家を継ぐべき嫡子も居らぬしな」


 俺が御家騒動を揶揄する様な話をすると、常陸介はキッと俺を睨み返してくる。


「それは兵部少輔殿に言われる様な事ではありませぬ!」


「気分を害されたのなら済まぬが、何もお主等を揶揄したり馬鹿にしておる訳ではないぞ。程度の差はあれど、家中が混乱するのは当然の事。寧ろ騒動が起こらぬ方が何か疚しい事があるのではと勘繰りたくなる。そうではないか?」


「はあ、まあそれは…」


 当主が死んで、スムーズに代替わりとなるケースなんてそうそうない。

 この十市家に於いては、その後継者自体がいないのだから揉めない訳がない。

 娘は居るが、松永家に人質として出されているし、後々の話だが松永久通に嫁いでいるので、このまま娘を後継とすれば松永家に取り込まれるのは避けられない。

 まあ、その後に松永家は滅ぶんだけど。


「どちらが勝つのか分からぬ争いに、家を割って安泰を謀るは常套なれど、今の情勢では止めておいた方が良い」


「!いえ、決してその様な事は…」


 家を割る事への理解を示すのと同時に、松永家を裏切る事は分かっているぞと警告を入れる。


「隠さずとも良い。筒井家からの誘いは来ておろう?来ぬ筈は無いのだからな。混乱しているであろう十市家を調略せぬ事など有り得ぬ。もし本当に来ておらぬのならば、筒井家に勝ち目はあるまい」


 時期的にどうだろ?

 来てないかもしれないけど、それならそれで筒井家の評価を下げる事には成功しているだろう。

 来ていなければ俺の方が筒井家よりも十市家の事を気にしていると思われる筈だし、来ていればバレているぞと釘を刺した事になる。


「…」


 黙ってしまった常陸介に更に追撃を加える。


「本来であれば霜台は未だ摂津国で三好家と対峙しておった事であろう。京も朝倉家や浅井家が支配しておったやもしれぬ。陽舜坊(筒井順慶)もそれに乗じて霜台に戦を挑む算段であった筈だ。しかし、そうはならなんだ。儂が潰した。三好家は早々に兵を退き、霜台は兵を損ねる事は無かった。浅井家は滅び、朝倉家も風前の灯火。どれだけ国人が筒井家に味方するかもある故、決して勝てぬとまでは言わぬが、相当に苦戦する事は考えるに難くはあるまい」


 俺の畳み掛ける様な言葉に常陸介は更に考え込む。


「悪い事は言わぬ。今は止めておけ。何れ機会もあろう」


 更に続けた俺の言葉に常陸介はハッと顔を上げ驚いた顔をする。


「兵部少輔殿、それは…」


「何を驚く。儂は霜台の家臣ではなく、織田家の家臣じゃ。霜台と大樹の仲が些か危ういのは事実なれば、お主の考え通り、備えねばならぬのは間違ってはおらぬ。であろう?」


 俺は笑みを浮かべて常陸介の顔を覗き込む。

 こういうのは頭ごなしに否定しても反発を招くだけだ。

 考えはあってるけど時期が悪かったね、次頑張ろうと褒めてあげれば不貞腐れる事もないだろう。


「…誠、兵部少輔様の申される通りに御座いますな」


 何故か緊張した面持ちで答える常陸介。

 おかしい、優しく笑みを浮かべて褒めた筈なのに。


「常陸介殿、お主の働きに期待しておるぞ」


「…はっ」


 まあ、いいや。

 これで戦が起こっても筒井家側に味方するのは控えてくれるだろう。

 まあ、これだけやったんだし、常陸介が史実通り筒井家に味方したとしても、それは霜台が悪いよね。


「そうだ、南の貝吹山城に居る越智家の事なのだが…」


「…越智家に何か?」


 越智家の居る貝吹山城には、元々は越智家増という者が入っていたのだが、先月松永家に降伏して松永方であった甥で当主の越智家高が入城したばかりだ。


「伊予守(家増)は諦めておらぬぞ。民部少輔(家高)の首を狙っておる」


 実際、2年後に家高は家族共々殺されるのだが、裏で糸を引いていたのが家増と言われている。

 本当かは知らん。

 手土産代わりに越智家の情報をあげるので活用してくれたら嬉しい。

 若干、常陸介の顔色が悪くなった様にも思えるが、まあ気のせいだろう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 着々と影響力を広げていってるよね [気になる点] もう振舞や言動が黒幕ムーブなんよ [一言] 父親の命の危険が低下した今 森兵部少輔は今後織田政権内でどんな立場にいたいの?
[良い点] 500話おめでとうございます! 儂が育てたならぬ儂が潰したがパワーワード過ぎまする [一言] 地味に赤穂森家へのブーメランにもなりかけるお話 嫡男一人では全然足りませぬぞ 一人でスタメン組…
[一言] かつての謀聖をその目で観てきた謀神からは、どう見られてるのか気になる所ですね 宇喜多直家や黒田官兵衛、本多正信に兵部少輔と集結しているとは、九州が修羅の巷(ちまた)なら、中国地方は魍魎の巷…
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