499 大して史実と変わらないよね?
多聞院の長実坊英俊の話を聞いて十市家が予想通り割れているのは分かったが、十市遠成の死後直ぐならば、以前の方針のまま霜台に従うのではないかな?
筒井家がちょっかいを掛ける時間なんて無かったと思うが?
霜台の力って、俺が考えていたより大した事ないのかな?
いやいや、義昭が将軍になってからの活躍は…何かあったっけ?
本国寺の変…救援には来てたかな?
確か史実通りに動いていた筈。
大和国の切り取り次第…右衛門大夫(佐久間信盛)殿の助けを借りて侵攻中。
但し、現在右衛門大夫殿は朝倉家討伐準備の為に近江国在中。
金ヶ崎の戦いは空気。
唯一存在感の示せる撤退時の朽木でのイベントは何故だか発生せず。
だが、そんな事くらいでは影響なんて出ないだろう。
野田・福島の戦いはあったから、霜台も出陣していた筈。
その際、霜台と対峙していた三好伊佐や香西長信等は史実通りに降伏している。
義昭との仲は、今回阿波三好家との関係を回復しようとした事で少し悪くなったらしいが、まだ大した事はないだろう。
…結論、大して史実と変わらないよね?
「大和国でも兵部少輔殿の名声は留まる事を知りませぬ。逸早く時勢を読み、近江国へ進軍して朝倉家の上洛を阻むと同時に、小豆島や讃岐国で騒ぎを起こして篠原家の水軍を撤退させ、摂津国に残った三好家の面々を孤立させて降伏に追い込ませた。その前の金ヶ崎からの撤退の時も六角右衛門督殿や高島七頭を動かして、浅井家に付け入る隙を与えなかったとか。霜台を悪く言う訳ではないが、兵部少輔殿の活躍に比べて些か精彩に欠けると申すか、何と申すか…」
英俊が言うには俺の名声で霜台の活躍が眩んでしまったらしい。
いやいや、俺のせいにしないでくれる?
幾ら俺が活躍したとしても、それで霜台の活躍が無かった事にはならないし、霜台が弱体化した訳ではないよね?
しかし…俺のせいではない事は明白だが、でもちょっとは霜台に協力した方が良いのか?
仕方なく英俊に十市遠長の紹介状を書いてもらい十市家へと向かおうと思う。
これ以上ここに居て、厄介な人と会いたくない。
「これは長実坊殿、御来客であったか」
英俊の許を辞そうとした時に1人の僧が英俊に話しかけてきた。
「これは理趣院殿、如何なされた?」
「いや、偶には長実坊殿と茶でもと思うたのだが、来客中であったか」
理趣院と呼ばれた僧は、然も残念そうにこちらをチラチラと見てくる。
茶をシバキに来るくらいだし、英俊と仲の良い僧侶なのだろう。
「理趣院殿、此方は織田家の森兵部少輔殿」
「森兵部少輔に御座る、理趣院殿。当方の所用は済みました故、御気になさらず」
英俊が理趣院に俺を紹介したので、俺も直ぐに立ち去るから気にするなと言っておく。
「これは申し遅れた。拙は大乗院に務める尋憲と申します。あの噂の森兵部少輔殿とは露知らず失礼致した」
ほう、大乗院の尋憲さん…どこかで聞いた名だな。
「理趣院は拙と同学でしてな、よく茶などを共にいただく仲なのです」
「拙は元々二条家の者で、一度九条家の養子となり、そこから大乗院へ入った事もあって、左京大夫(三好義継)殿や霜台にも良くしてもらっております」
うっ、九条家か…
仲良くしておいた方が良いのか?
大乗院の尋憲?…大乗院の尋憲…あっ!
「某はここで御暇させていただきましょう。御二方の邪魔をする訳には参りますまい。某も本日中に十市家に行かねばなりませぬ。長実院殿、御世話になり申した。理趣院殿も、また時間のある時に茶など共にしましょう。では」
ここは、さっさと撤退するしかない!
「それは残念に御座いますな。また次の機会にゆるりと兵部少輔殿の話を聞きたいものに御座いますな」
「その時は是非に」
よし、即刻ここを離れよう。
尋憲ってアレだろ?
この後、天正四年興福寺別当相論で興福寺別当の座を兼深って奴と争って揉める尋円の弟子だろ?
俺の所へ流れ弾が飛んで来たりしないよね?
兎に角、こんな奴と一緒に居られるか!
俺は帰らせてもらう!




