494 兵部大輔が来た
斎藤外記が屋敷を辞すのと入れ換えに、兵部大輔(細川藤孝)殿 がやって来た。
また、面倒臭い話なんだろうなぁ。
「御久しゅう御座いますな、傳兵衛殿」
「御無沙汰しております、兵部大輔殿」
ニコニコと挨拶をする兵部大輔殿に嫌な予感がするが、一応は歳の離れた友人…歌仲間だし笑顔で対応する。
「佐々木越中守の事は済まなんだな」
高島七頭の筆頭格である佐々木越中守を口説いて織田家に味方させたのは兵部大輔殿だからなぁ。
兵部大輔殿の誘いに乗り、一度は織田側へ味方した越中守は、志賀の陣の時に朝倉軍に降伏し、織田家を攻撃してしまっている。
「朝倉家の大軍を前に守りきれぬと判断されたのでしょう。越中殿を責めるのは些か酷というもの」
流石に越中守に向かって、朝倉家の大軍を相手に討ち死にして来いとまでは言えないよな。
内心は兎も角…
「傳兵衛殿にそう言ってもらえるのは有り難いが、大樹は相当御怒りになっておられてな」
まあ、義昭なら討ち死にしてでも朝倉軍を止めてこいって言うかな?
流石に偏見か。
しかし、流石に義昭に越中守の事を赦す様に取りなしてくれとか言わないよね?
無理だよ?
「某に越中守の事を取りなせと?」
「いや、流石に傳兵衛殿にその様な事を頼むわけにはいかぬ。越中守が寝返った為に御父上が危うくなった事もあるし、傳兵衛殿は越中守に思うところがあろう」
いや、そんな事はないけどな。
もし越中守が籠城していたら、親父はその後詰めに向かわねばならず、そうなれば大軍である朝倉軍が、少数の親父達を迎え撃つ形で戦闘になってしまう。
そうなれば親父達の命も危うかっただろうし、かといって後詰めを出さなければ親父や織田家の評判が地に落ちる。
後出しでの感想だが、寧ろ降伏してくれて有り難うという気持ちだ。
「では、此度は如何なる用に御座いましょう?」
兵部大輔殿は確かに歌仲間だが、ウチにやって来る時は、歌や茶などのイベント以外では厄介事がある時とかくらいだ。
兵部大輔殿、結構忙しいからね。
「此度の傳兵衛殿の働きに、大樹が甚く感謝されてな。正式に兵部少輔の官職を与えようと仰せなのだ」
えっ!要らんけど?
「しかし、殿の許しなく官職を受ける事は…」
「安心召されい。傳兵衛殿はそう申されるであろうと思い、予め尾張守様や左衛門佐殿の了承は得ておる」
断れないのか…
役職とか、面倒事が増えそうで嫌なんですけど。
「それは御手数を御掛け致した」
兵部大輔殿は、そんな雑務までしなくていいよ。
「まあ、傳兵衛殿には思うところもあろうが、快く受けてはもらえぬか?」
俺の何とも言えない表情で察したのか、兵部大輔殿が懇願してくる。
えっ、何か俺に受けて欲しい理由でもあるの?
「大樹に何か?」
「うむ。霜台(松永久秀)が三好家と縒りを戻そうとしておるらしい」
何でも霜台は、此度の戦で降伏した三好康長を通じて、四国の三好家と和睦しようとしている…という噂があるらしい。
義昭は、それが気に食わないと荒れているとの事。
後、朝廷にも不満を持っているとの話も聞いた。
また改元しようとしたらしいが、一年も経ってないから駄目だと断られたのを根に持っているらしい。
その不満を逸らす為にも快く官職を受けろって?
知らんがな!




