493 外記に任せたらいいんじゃね?
殿に一条殿(一条内基)に会う様に言われたので仕方なく京へ向かう。
京屋敷には入ったが、公家との付き合いなんて面倒臭い事にしかならないので、全くやる気が起きない。
このまま忘れた振りをしていたら、無かった事にならないかなぁ。
しかし、そんな淡い願いを打ち砕くべく、小姓の平野五郎左衛門がやって来る。
「殿、斎藤外記様が御越しに御座います」
斎藤外記?誰それ?
「通せ」
う〜ん…あっ、よく考えたら加木屋久蔵(正次)が名前を変えたんだったわ。
うん、思い出した。
この前、会ったばっかりだったわ。
前世と違う名前を出されると、一瞬誰だか分からなくなるんだよねぇ。
確か今、久蔵は公家との折衝してるんだったよな。
外記が部屋に通され挨拶を交わした後、早速本題に入る。
「兵部少輔様、一条様より御話があると御聞きになられましたか?」
「何やら頼みがあるとは聞いておるが詳しい事は知らぬが、西国に戻る儂への頼みだ。恐らくは土佐の事であろう?」
頼みの内容は聞いてないけど、推測は出来る。
先日、土佐一条家当主の一条兼定が土佐を追放されて大友家へ逃れているそうだし。
でも、一条内基の土佐への下向は1573年とかじゃなかったっけか?
「流石は兵部少輔様。土佐一条家に騒動があった様で、一条殿は下向を望まれておられます。兵部少輔様には、その道中を御願いしたいと」
播磨から土佐への道中の安全を頼むという事か。
え~、面倒臭い。
瀬戸内海の安全なんて、村上水軍が毛利家と大友家のどっちに付いているか次第だろ。
そして、多分大友家寄りかな?
伊予国の河野家は毛利家を通せば何とかなるだろうし、土佐国の長宗我部家は一条家と通じている(多分)。
一条家当主の一条兼定の追放は、長宗我部元親と一条内基との合意があったという説もあるしな。
本当かどうか知らんし、聞いても教えてくれないだろうけど。
厄介事に巻き込まれるくらいなら聞きたくもないし。
「しかし、今は大友家と毛利家が争っておって海も荒れておろう。下向はもう少し落ち着いてからでも良いのではないか?」
だいたい下向なんて、京が荒れていたりした時に、ちょっと領地を見てきますって理由で京から逃げる為の口実とかに使うものだろ?(偏見)
今、京は落ち着いているし、土佐国へ逃げる必要なんてないだろ。
「それだけ土佐一条家が危ういという事に御座いましょう。それに金銭の面で余裕が出来た事もありましょうな」
「金銭面で余裕が?」
年中貧乏の公家が金銭面でって、何か臨時収入でもあったのか?
「延暦寺が焼けた時に一緒に証文も焼けたのでございましょう。他の方々も銭を返さずとも良くなったと喜んでおられましたから」
ああ!俺が殿に渡した日吉社から持ってきた証文か!
殿が公家衆の証文を焼けた事にして借金をチャラにしたんだろうなぁ…
そのせいで俺が苦労をする羽目に…
全く、少しは後で尻拭いをさせられる家臣の苦労を考えて行動してもらいたいものだな。
そんなんだから後世でパワハラ上司みたいな評価を受けるんだ。
「成る程。しかし、各所への調整も必要だ。直ぐにという訳にはいかぬぞ?」
「実際に下向するのは三月から半年程後になりましょうな」
まあ、その辺は内蔵助(斎藤利三)に一任すれば良いや。
長宗我部元親に近付くのは、ちょっと気にかかるけどな。
それよりも外記が公家衆との間に入ってくれるなら、もうコイツに一条家の事を全部任せたらいいんじゃね?
俺、一条内基に会わなくても良くない?




