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討ち死になんて勘弁な  作者: 悠夜
504/554

491 これ、手土産

 もう近江国でやる事は全て終え、ここに俺が居る意味はもうない。

 はっきり言ってしまえば、十数年後に本能寺の変が起こるまでは近江国に用はないので、キリの良いところで西国に戻りたい。

 西国に用があるのかと言われれば、そっちも別に用なんてないんだけど…

 ならば何故、都に近い近江国ではなく西国に戻るのか。

 それは西国を放置して所領を失う事になったりしたら、殿に責められて処分されてしまう恐れがあるからだ。


 もう俺は、本能寺の変を回避する為の権力や戦力を維持する程度の活躍しかするつもりはない。

 もう功績を積んで出世する必要がないのだ。

 だけど、それを許さないのがウチのブラック上司だ。

 適度に活躍しないと某佐久間さんの様にポイッてされるかもしれないし。

 追放されるだけなら受け入れるが、打ち首にされるのは勘弁だ。

 家族にも累が及ぶから、追放も回避するけど。


 という事で、赤穂へ戻りますと殿へ挨拶する為に養子の赤松彦五郎を連れて、殿の居る岐阜城へ向かう。


「大分長い間、西国を空けております故、この辺りで赤穂へ戻ろうかと思いまする」


「うむ、大儀であった。お主が居らなんだら危うかったであろう。西国も変わらず焦げ臭いが、お主であれば問題なかろう」


「はっ!」


 よし、これって西国は自由にして良いって事だよね?


「山陰を右近に、山陽をお主に任せる故、但馬国の右近(坂井政尚)とよく諮るように」


 おっと、釘を刺してきた。

 右近将監殿とは連携を取っていかないとな。


「父とは違い右近将監殿との仲は悪くありませぬ。義弟の久蔵(尚恒)とも酒を酌み交わす仲。二人とよく諮り、西国を治めて参ります」


「うむ。其方等であれば問題なかろう」


「では、因幡国の事は右近将監殿に御任せしても?」


 一応、毛利家との取り決めで、織田家の勢力範囲は備前国、因幡国と美作国の東側までとなっている。

 右近将監殿の治める但馬国の隣である因幡国は、右近将監殿に任せても構わないのかな?


「うむ、右近には因幡・但馬両国の織田領を、お主には美作・備前・播磨三国を任せる」


「はっ!」


 よし、因幡国の面倒は見なくて済んだ。

 美作国も押し付けたいという気持ちもあるのだが、美作国には後の森家の本拠である鶴山(津山)がある。

 手の届く所になければ気にはならないが、今はちょっと手放すには惜しい。

 まさか、森家所縁の地に俺が引き寄せられているとか?…無いな。

 出生地の蓮台とか、天正の大水害に遭う前に他人に押し付ける気満々だしな。


「うむ、ところでその者は?」


 おっと、手土産の彦五郎の事を忘れる所だったぜ。


「以前御知らせしました、某の養子の彦五郎に御座います」


「ほう、其方が赤松左京大夫の子、彦五郎か」


 彦五郎を養子に取る事は既に殿に知らせてあるが、殿が直接会うのは初めてだな。


「はっ!森兵部少輔が子、彦五郎に御座いまする」


 お前、今まで赤松ばかりで森を名乗った事無いだろ。

 殿の心証を良くしようと胡麻擂ってるのか?


「この彦五郎を殿の御側にと思いまして連れて参りました。何れ殿の役に立つ事もあろうかと存じます」


 赤松宗家の者だし、後々色々と使い途も出てくるだろう。

 俺が預かって死蔵しておくより、殿が側に置いておいた方が百倍互いの為になるだろう。

 親父に預けて森家の一員としてのイロハを叩き込んでもらおうかとも思ったが、まあ赤松家的にもこっちの方が良いだろう。


「良かろう。彦五郎よ、今日より儂の側に控えておれ」


「ははっ!」


 よし、俺の用事は全て済んだ事だし、とっととずらかろう。

 殿は、いつも俺に厄介事を押し付けようとしてくるからな。


「ところで傳兵衛よ」


 チッ、逃げそびれた!


「はっ!」


「西国へ戻る前に京に寄り、一条殿の所へ赴いて参れ」


 この時代で一条って言ったら、一条内基の事かな?


「一条殿とは権大納言の?」


「その方に決まっておろう。何でも土佐に下向した御一門の事で相談があるらしい。一条殿の事はその方に一任する故、なるべく一条殿の希望に沿う様に努めよ」


 えっ?内基が土佐一条家のゴタゴタで下向するのって、まだまだ先の話だったよね?

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― 新着の感想 ―
[一言] さあ、今度は四国だよ。
[一言] やったね! 長宗我部と戦えるよ!
[一言] >一条家のゴタゴタ 史実を年代毎に並べると 永禄7年(1564年)大友家と婚姻同盟 永禄11年(1568年)伊予侵攻(毛利に敗退) 永禄12年(1569年)妹婿の安芸国虎、長宗我部元親に敗…
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