488 次の奏者
下間頼照視点です。
摂津国東成郡生玉荘大坂大坂本願寺 本願寺坊官 下間筑後守頼照
「開けてみれば織田家の圧勝に御座いました」
奏者の丹後(下間頼総)殿が上人(顕如)に近江国での戦の報告をしている。
近江国で織田家と浅井朝倉家との間に起こった戦は、織田家が浅井家を滅ぼし、朝倉家を近江国から追い返し逆に敦賀郡を奪う形で決着した。
浅井家は、三好家や池田家との連携は取れず、頼みの朝倉家も織田家に返り討ちにあい、為す術なく滅びてしまった。
「しかし、三好家の誘いに乗らなんだのは正解に御座いましたな」
儂も丹後殿ばかりに喋らせぬと、上人との話に割って入る。
「尾張守殿に合力したのは間違いではなかったのう。これも御仏の御導きよな」
上人は織田家に味方した事を心から安堵しておられる。
確かに。
元々縁のあった三好家ではなく織田家の方に味方したのは、織田家の重臣である森兵部少輔が信心深く、寄進も熱心だった事がある。
同じ信者であるならば、落ち目の三好家よりも勢いのある森家に助力した方が利がある。
しかし…
「些か織田家は勝ちが過ぎたのでは御座いませぬか?」
上人に織田家が力を持ち過ぎるのは危険ではないかと問う。
「それは如何なる事か?」
「あまり尾張守殿が力を持たれては御しづらくなりまする。何れ増長した大樹(足利義昭)や尾張守殿に無理難題を吹き掛けられる事になるやもしれませぬ」
大樹や尾張守に必要以上の力を持たれ、身の程知らずにも此方の要求を突っぱねる様な事を仕出かされては敵わぬ。
「それは考え過ぎではないか?それに尾張守殿とであれば、兵部少輔殿やその父である左衛門佐殿に間に入ってもらえば良かろう。決して無下にはされまい」
上人の織田家に対する…いや、兵部少輔に対する信頼はかなり厚いのか?
兵部少輔が力を持てば、兵部少輔と昵懇の実悟殿の力が増す。
面白くはないな。
奏者の丹後殿とは違い、儂は下間家の傍系に当たる。
なんとか儂も手柄を立て、何とか丹後殿を追い落として次の奏者になりたいところだが…
「成る程。では、来年の織田家の越前攻めに助力致すのは如何に御座いましょう。越前攻めに先駆けて越前越中に人を入れ、一揆を起こしておる暴徒共を抑えては?」
織田家に奪われる前に門徒を纏め、力を示しておきたい。
「ふむ」
「朝倉家も北陸の門徒を利用しようとするに違いありませぬ。暴徒共が左衛門督(朝倉義景)の口車に乗り、織田家へ襲い掛かれば、織田家との間に罅が入りましょう。そうさせぬ為にも、人を遣るべきに御座います」
「成る程、筑後守の言ももっとも。では丹後、誰ぞ良き者を…」
「この事を言い出したのは某に御座います。是非とも某に御任せくだされ」
丹後殿に話を回そうとされた上人を慌てて止めに入る。
儂が手柄を立てる機会を思い付き提言したというのに、他の者に役目を奪われるなど冗談ではない!
「ふむ、良かろう。北陸の事は筑後守に任せる」
「はっ!」
ふう、危なかった。
これで尾張守の覚えも良くなろう。
兵部少輔以外の織田家の重臣との縁が出来れば、実悟殿の力を削ぐ事も出来る。
何なら言う事を聞かぬ者等をけしかけて、織田軍を襲わせてもよい。
連れていくのは、子の和泉守(下間頼俊)と…七里三河守(頼周)辺りで良いか。
元はと言えば、この策も三河守の献策であるしな。
人柄には多少の不安を感じるが、既に越中国に居る杉浦壱岐守(玄任)を越前へ呼び、手助けを頼めば大事あるまい。
次回は5月10日予定です。
ゴールデンウィーク?…古文かな?学生時代に聞いた覚えがある様な?




