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討ち死になんて勘弁な  作者: 悠夜
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 39 蟀谷

 永禄五年(1562年)の正月は、特に何事もなく蓮台で過ごす…つもりだったのだが、親父から清須へ来いとの呼び出しがあった。

 どうも、今年も修行相手を見繕ってくれたらしい。

 殿が味醂を造った事に気を良くして、馬廻との試合を許可してくれたそうな。


 精鋭揃いの馬廻との稽古は、楽しみだなぁ。

 今年も下方左近殿か、はたまた縁の深い槍の又左か、槍三本の編笠(あみがさ)清蔵(せいぞう)か。

 いつもの家臣連中を引き連れて、若干浮かれながら清須へと向かう。


(よろ)しくお願いします!」

 と槍を振るうが、やはり()なされる。

 いくらガタイがよくても、まだ十一歳の子供の攻撃など、二十歳を過ぎた武者に対してはあまり効果がない。

 やまりまだまだ成長が足りないな。

 対戦相手は、岩室(いわむろ)長門守(ながとのかみ)重休(しげやす)

 桶狭間の戦いの折り、殿が飛び出していった時に、加藤弥三郎、山口飛騨守(ひだのかみ)、長谷川橋介(きょうすけ)、佐脇藤八と共に付き従っていた五騎の小姓の一人だ。


 さすがは、『隠れなき器用の仁』といわれた才人だ。

 才能があって、殿のお気に入りで、知行も五千石ある。

 流石、持ってる人は違うな。


『この人が生きていたならば』という話を聞いたりするが、どうなっただろうか。

 堀秀政のような軍監や奉行などとなっただろうか、丹羽長秀のように出世しただろうか。

 それとも一生馬廻で終わるのだろうか。

 今年、討ち死にするわけだが…


 まあ、技量では勝てる訳もないので、一年前の下方左近殿との稽古から鍛えてきた突きの一撃だけを狙う。

 そのために突きは使わずに、相手の意識から突きの事が消えるように戦う。


 相手の攻撃を必死で(さば)きながら、力ずくで槍を払い除け、体勢を崩したところへ、蟀谷(こめかみ)に向けて突きを放つ。

 なかなかの一撃だと思ったが、ギリギリ回避されてしまった。

 しかし、お互い大きく体勢を崩してしまい、攻撃が止まったことで、引き分けとなった。


 やったー善戦したよ~。

 クックックッ、元服前の小僧と引き分けになった気分はどうですかエリートさんよ~とか、思ってないよ。


 さて、この一撃に意味があるのか無いのか。

 どっちでもいいけどね。

 出来れば生き延びて活躍して欲しいけどね。


 でも結局(かわ)されてしまったなぁ…少し自信があったんだけどなぁ…

 管槍(くだやり)でも作ってみるか…もう、作られていたっけ?

 でも、使うと評判が悪くなりそうなんだよなぁ… 古い考え方の人が多いから…

 でも折角(せっかく)思い付いたのだから、一本試しに作ってみるか。

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