289 無事か!於勝ちゃん
戦場に到着すると、既に於勝ちゃんと篠原軍との戦端は開かれていた。
ヤバい!於勝ちゃんの方が圧倒的に兵が少ない!早く助けないと!
見ると於勝ちゃんは、5倍以上兵数に差のある敵に追われて…ないな。
なんだろう?於勝ちゃんは敵の後方にいて、敵は混乱しているのか碌な反撃もしていない様に見える…?
よく分からんが兎に角、敵と於勝ちゃんの間に割って入り、先ずは於勝ちゃんの安全確保が先決だな。
「此れより間抜けにも釣り出された敵兵共を討つ!於勝のお膳立てを無駄にするな!半蔵!伝内!市介!十兵衛!四郎左衛門!五十ずつ率いて、於勝と敵の間に割り込め!儂は於勝と合流する!」
敵兵の事は、渡辺半蔵、建部伝内、一柳市介、雨宮十兵衛、鳥居四郎左衛門に任せて、俺は於勝ちゃんとの合流を優先する。
於勝ちゃんの方を見ると、向こうも俺達に気付いた様で、敵に向かって突撃を開始していた…おい!
アイツ、俺達が来たせいで手柄が減るとでも思ったんだろうか。
「於勝め!奴は手柄を独り占めする気だ!我等も遅れるでないぞ!」
兎も角、於勝との合流を急がなきゃ!
敵に突入していく於勝の兵を追って、こちらも敵に向かって突入する。
一部脱出しようとしている敵部隊もいるみたいだが知った事か!
敗走する雑魚なんて放っておけばいい。
「兄上!」
漸く於勝と合流出来たのは、敵を六割方殲滅した後だった。
追い付いた俺の側に於勝と加藤喜左衛門がやってくる。
「いや~、流石は殿の弟御にあらせられますな!殿の初陣を思わせる様な敵中突破に御座いました!見事大将首を挙げられましたぞ!」
お前のせいか!!!
「兄上!その様な事より逃げた敵を追わねば!」
於勝が頻りに追撃しろとせっつく。
やる気無さ気に敗走する敵に目を向けると、敗走する味方を救おうと高砂城から増援が出て来ていて、その増援に対して戻ってきたウチの後続の斎藤内蔵助や与力連中が戦を仕掛けていた。
「ほれ、わざと敵を逃がした事で、それを救わんとした高砂城に残る兵が、城を出てきおった。それに与力連中にも手柄を立てさせてやらねばな。奴等を手柄も無しに帰らせては、森家の評判が悪くなる」
「流石は兄上!そこまで考えておられたか!」
そんなの考えてる訳ね~だろ…
でも、於勝ちゃんが初陣の戦果で調子に乗らない様に、マウントをとっておこう。
まだまだだね、という表情を浮かべて、於勝を諭していると、「殿!」と近侍の岸新右衛門が走り寄ってくる
「殿!大膳殿より、岫雲斎の兵が戻ってくるとの知らせが!」
高砂城のピンチを知った篠原長房が、大塩城を落とす事を諦めて引き返して来たか。
「よし、岫雲斎が戻る前に全軍を退かせろ!」
流石にまだまだ岫雲斎の方が兵数が多いので、まともに戦っては被害が増して、今後の行動に影響が出てしまう。
「兄上、岫雲斎を討たぬのか?」
於勝…まだ戦い足りないのかよ。
ドン引きだわ。
これが後世で語り継がれる程のキ…戦国武将ってやつなのかぁ?
まあいいや、俺はそんなところで争う気はないからな。
「儂等の目的は龍野の下野守殿を御救いする事よ。外様の岫雲斎を破ったとて、下野守殿を救えねば、何の手柄にもならぬ。出来れば岫雲斎は別所家に任せて儂等は西へ進みたい所だが…」
う~ん、別所家としてどう考えるだろ?
岫雲斎を俺達に押し付けて小寺家の領地を削りに行くか、俺達に高砂城は任せられぬと高砂城を落とす事を優先するか。
流石に敵の数が多過ぎるから、俺達だけでは高砂城を落とせないから、別所家に兵を出してもらわないといけないけどな。
ここで足留めかぁ。
さっさと高砂城から逃げ出してくれないかなぁ…くれないよなぁ…
その後、戻って来た岫雲斎は、壊滅している兵を纏めて高砂城へ入った。
俺達は、岫雲斎を追ってやって来た別所孫右衛門殿と合流して、高砂城近くの利生寺に陣を敷いて高砂城の篠原軍と睨み合いとなった。




