表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
討ち死になんて勘弁な  作者: 悠夜
296/554

286 増える狂人【地図あり】

各務孫太郎視点です。

 播磨国印南郡中島村 森家家臣 各務孫太郎


 突然馬に乗って駆け出した於勝様に追い付くと、川原で鱸を焼いて食べておられた…

 何故だ?敵を挑発しに向かったのではないのか?


「おう、孫太郎も来たか!お主も食え!」


 於勝様が儂に焼き立ての鱸を奨めてくる…

 於勝様に何かあっては一大事と、慌てて追い掛けて来たが、於勝様等の様子に唖然となる。


「この様な時に何をなされておられるのですか!」


「すぐに食べぬと鱸が傷むではないか」


 九一郎殿の言葉に力が抜ける。


「その様な話をしておるのではない!」


 あまりの馬鹿馬鹿しさに気が抜けて思わず声を荒らげるが、共に追い掛けて来た筈の加藤喜左衛門殿が、何故か鱸を食らいながら儂を宥めてくる。


「まあまあ、敵への挑発にはなっておろう。敵を挑発する事は、傳兵衛様も認めておられる」


 確かに挑発にはなろうが、流石に巫山戯過ぎではあるまいか…


「兄上曰く、腹が減っては(いくさ)は出来ぬ、だ。そう目くじらを立てるな」


 於勝様は、そう言うと再び鱸を渡してくる。

 今更何を言っても無駄なのだろう。

 溜め息を吐くと、その鱸にかぶりついた。



「於勝様!敵が高砂城より出陣!此方へ向かっております!その数、三百!」


 物見からの知らせに、皆に緊張が走る。


「漸く来たか!皆の者!戦の仕度を!」


 於勝様が嬉しそうに号令を掛ける。


「於勝様、ここで戦っては逃げ場が無く、場所が悪う御座います。何処かに移られては?」


 ここは山と川に挟まれて、退路が無い。

 例えば背後の山などに布陣すれば、後詰めが来るまでの時は稼げよう。


「必要ない!一人で十人程斬れば良かろう!兄上が鍛えた森家の精鋭であれば、難しくはなかろう?」


 その様な事、出来るはずもない!

 於勝様等を止めようと口を開こうとした時、加藤喜左衛門殿が於勝様を窘める。


「無茶を申されますな、於勝様。雑兵にその様な事を望んではなりませぬ。傳兵衛様は一番弱き者を物差しに策を練られます。己が出来るからといって、他の者にそれを押し付けてはなりませぬぞ」


 おお、流石は喜左衛門殿!

 喜左衛門殿は傳兵衛様が元服する前からの家臣なだけあって、於勝様も無視は出来ぬ。


「ならばどうせよと申すのだ。まさか尻尾を巻いて逃げよとは申さぬよな」


 於勝様は不満気な顔で、喜左衛門殿に尋ねられる。


「このままで宜しかろうかと…」


 えっ?もっと地の利がある所へ移った方が良いのではないか?


「この場におっては敵に囲まれるのではないか?」


 疑問に思った儂が、喜左衛門殿に問う。


「囲ませれば良いではないか」


 はっ?


「敵に襲われた上に囲まれてしまっては、如何するつもりか?」


「我等を囲むという事は、それだけ敵の陣容が薄くなるという事に御座る」


 確かに、広所へ兵を配さねばならぬ為、陣容は薄くならざるを得ぬが…


「成る程!その薄くなった本陣目掛け斬り込み、敵の大将を討ち取るのだな!」


 於勝様達は喜左衛門殿の話に、我が意を得たりと生き生きとした表情を浮かべている。


「いや、多少兵が減ったとて、我等が将を討つ前に、敵に囲まれ討ち取られよう」


 儂が反論すると、於勝様はやれやれといった様子で首を振る。


「なに、此所には兄上が長年鍛えた蓮台の兵共が居るのだぞ?囲まれる前に敵将の首を取る事なぞ造作もない」


 その様な事があるものか!

 慌てて喜左衛門殿に目を向けると、感慨深げに頷いておられる。


「思い出しますなぁ…傳兵衛様の初陣を。あの時は敵兵三百に対し、我等十騎ばかりで斬り込み、唯ひたすらに大将目掛けて真っ直ぐ突き進み、見事傳兵衛様が石橋式部大輔を討ち取られました」


 まさか!戦場での傳兵衛様が、その様な御方だったとは…普段の物腰とは大きく異なる。

 いや、しかし…年始にあった京での戦でも、傳兵衛様は敵に斬り込み、共に戦った家臣の市助殿が大将首を上げたとか…


「おお!流石は兄上!」


 話を聞いた於勝様は大層喜ばれておられる。


「あの頃の傳兵衛様の齢は、今の九一郎殿と同じ九つであった。しかし此度の戦の方が味方の兵の数も多く、しかも精強に御座る。何を不安に思う事があろうか!」


 喜左衛門の言葉に周りの兵達の士気も上がる。


「ほれ、いよいよ敵もやって来ましたぞ。孫太郎殿も迷っておる暇など在りませぬぞ!」


 小次郎殿の言葉に顔を上げると、遠くにうっすらと敵影が見える気がする。


 本当に敵に斬り込むのか…

 ええい、儘よ!やってやろうではないか!


挿絵(By みてみん)

 注) 加藤喜左衛門の記憶からは、熱田から援軍があった事は、都合良く消えています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 勘違いがドンドン転がって行くぅ(笑)
[一言] 本回は城→中学・高校に置き換えてみて なんだかヤンキー漫画の抗争回を読んだ後のような読後感(笑)
[一言] こうやって調教されて数少ない武官の常識人が狂人側に寄っていくのか。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ