284 高砂城は無視
宇喜多対策の為に別行動をする弥八郎と別れ、俺達はそのまま予定通りに尾上城へ辿り着く。
尾上城では播磨を探っていた多羅尾彦市と合流し、直ぐに主だった者達を集めて軍議を開く。
「岫雲斎率いる篠原軍は、高砂城を出、西へ進軍致しました。恐らくは小寺家と合流する為と思われます」
彦市の報告だと、既に篠原長房は城を出たらしいが、問題は城に残っている敵兵力だな。
「城には、如何程の兵が残っておる?」
「凡そ五百程かと」
五百かぁ…きっついなぁ…
「街道からは外れるが、御着城との間に北脇城があったな。そこも別所家が落としたと聞いておるが、どうなっておる?岫雲斎は、北脇城を如何すると思う?」
長房は、別所家が落とした北脇城を無視するのか、それとも攻めるのか。
「北脇城に入っておられるのは、別所孫右衛門(別所重宗)殿にて、無視は出来ますまい」
そうだな。
孫右衛門殿を残しておくと、退路を塞がれるかもしれないから潰したいよな。
「よし!高砂城は無視して、北脇城の孫右衛門殿と合流し、あわよくば岫雲斎を挟み打ちにする!」
城攻めするより楽だし。
赤松政秀の領地を削るという目的が無ければ、だらだら城攻めをして政秀が降伏するまでの時間を稼いでもいいんだけどな。
それに史実と違って摂津衆が浦上家を追い払い、政秀を救ってしまったら、お前何しに来たんだと言われかねん。
それに摂津で岫雲斎が逃げ出した事で肩透かしを食らった脳筋共の為にも、一戦やって岫雲斎をボコしておかないと、彼奴等のフラストレーションが溜まるだろうしな。
「兄上!俺達に先陣を!」
案の定、戦になると知った於勝が、先陣に名乗り出るが、何となく不安だし却下だな。
先陣は乳兄弟の勝三郎に任せ、二陣に谷野大膳と赤座七郎右衛門殿、助六郎殿、坂井与右衛門殿、入江平内殿、大石弾正左衛門の与力連中、三陣が斎藤内蔵助、四陣が俺で、最後尾が於勝。
本当は於勝は真ん中に置いておいて、安全を確保するつもりだったのだが、先陣を切れないと分かると拗ねたので、高砂城から敵が出てくるかもね、と匂わせて最後尾に配置した。
俺が意味ありげにニヤリと笑って見せると、於勝もニヤリと笑って最後尾についた。
こんな素直で大丈夫かなぁ…
流石に岫雲斎が率いる本隊が戻らない内に、高砂城から敵が出てくる事はないと思うし、万が一出てきても直ぐに俺が救援に向かえるから大丈夫だろう。
先陣の勝三郎には、急がずゆっくり北脇城へ向かう様に命じる。
あまり急ぎすぎて、赤松政秀が消耗する前に浦上家が兵を退いても意味ないしな。
政秀が降参する目前になる様に時間を調整しないと…
尾上城を出て西国街道を西へ向かい、北脇城を目指して行軍する。
加古川、法華山谷川を渡り、昨年襲撃を受けた懐かしい魚橋を越えて少し進んだ辺りで、於勝の部隊にいる筈の山内次郎右衛門が駆け込んでくる。
「殿!於勝様が敵兵を釣り出すと申されまして、高砂城へ向かわれました!」
はぁ?於勝ちゃん、何で勝手にそんな事をしてるん?
俺が混乱していると、青木所右衛門が次郎右衛門を怒鳴りつける。
「何故、於勝様を御止めせなんだか!」
「於勝様は、敵が城より出て来ねば、傳兵衛様の策に支障が出ると…」
うん?そんな事、言ったかなぁ?
もしかして、俺が於勝を宥める為に匂わせたのを、勝手に解釈したとか?
う~ん、初陣からいきなり失点というのは流石に可哀想だし、作戦通りだったという事にしておくか…
「いや、出て来ぬのなら来ないで別の策も有ったのだがな。これは儂の言い方が悪かったか」
「そうだったのですか?!」
俺が於勝の勝手な行動を誤魔化すと、所右衛門と次郎右衛門が驚いてこちらを見る。
これで、於勝が命令違反した事にはならない…かな?
「まあ良い。引っ張り出せるのならば、それに越した事はない。で、敵は出てきそうなのか?」
「いえ、某が此方へ向かった頃には、まだ仕掛けておりませんでしたので」
まあ、於勝の行動に驚いて俺に援軍を求めに来たんだから、今どうなっているかなんて知らないよな。
う~ん、於勝ちゃんの許へ向かった方が良いか…
万が一、敵が城から出て来て、於勝が討ち取られる事があってはならない。
張り切っている先陣の勝三郎達には可哀想だが、於勝の安全には代えられない。
「よし!全軍で引き返し、高砂城より出てくる敵に備える」
全く、於勝ちゃんは予想外の動きをしてくれるぜ。
於勝ちゃんの行動に振り回される俺の身にもなってほしいよ。




