283 気になるあの人
翌朝に尾上城へ出発する事が決まると皆を解散させて、明日に備えさせる。
「殿」
俺も休もうかと思っていたのだが、弥八郎に呼び止められる。
「如何した弥八郎?」
「少々御話をと思いまして…」
何か2人きりで話したい事があるらしい。
なんの話だろう?
弥八郎の事だから謀略かな?
「良かろう」
供回りを遠ざけ、弥八郎と2人きりになる。
「殿は、此度の戦に何か存念が御有りなのでしょうか?あまり意欲を感じませぬ」
おお、流石は弥八郎、鋭いな。
「ほう、そう見えるか。流石は弥八郎だ」
「では、やはり…」
「うむ、龍野の下野守は見殺しにした方が、織田家にとって都合が良いのではないかと思ってな…」
「なんと!某はてっきり篠原家に対して、何か御有りなのかと…」
あれ?違った?
「無論、篠原家を播磨より追い出すのは当然だが、問題はその後よ」
「後に御座いますか…」
「昨年、下野守は娘を大樹の許へ向かわせ、大樹も側女として受け入れられた。もし御子が生まれれば、下野守は御子君の外祖父となる。これは宜しくなかろう?」
「左様に御座いますが、まだ御子君が御生まれになるかも分からぬ内から、気に掛ける必要がありましょうか?そもそも下野守殿の娘は、まだ御台様では御座いませぬ」
うん、確かにまだ御台…正室ではないけどさ。
子供が生まれるんだよ。
足利義尋が生まれちゃうんだよ…多分だけど。
だから、今後姻戚として邪魔になるかも知れないから、下野守は史実通りに退場して頂いた方が良いのでは?
島田弥右衛門殿との話し合いでは、領地を削りはするが、赤松政秀の命は守ると決まったのだが、俺個人としては間に合わなくても一向に構わないし。
まあ、弥八郎の言う通り、まだ義尋が生まれていないどころかその気配すら無いので、今から気にする必要はないのかも知れない。
「まあ、それはただの杞憂やも知れぬ故、口にはせなんだのだがな。それに理由はもう一つあってな。それも俺個人の理由なので、更に口にするのもどうかと思うたのだが…宇喜多三郎右衛門が気に食わぬ」
「宇喜多三郎右衛門に御座いますか?」
「そうだ。あの者は裏切りと暗殺が目立つ。近寄りたくはないな。敵にするのも怖いが、味方となっても背中を預ける気にはなれぬ。此方が勝ったとして、あの者の力が増すのだけは阻止したいものだ」
現在宇喜多直家は、浦上家を裏切って俺達の陣営に属している。
史実なら、龍野赤松家は浦上家に降伏して、摂津衆や別所家は援軍を送る必要がなくなり撤退する。
宇喜多直家は浦上家に再び臣従し、独立の機会を逃す事になるのだが、俺達が勝ってしまうと、宇喜多家は独立し、浦上家は弱体化してしまうんじゃないかな。
それはちょっと怖い気がする。
宇喜多直家が独立した方が良いのか、浦上家の家臣でいた方が良いのか、どちらが俺にとって都合が良いのかは分からないから、史実通りの方が動きが読みやすくて良いのではないかな?
「殿は、それ程までに三郎右衛門を危うく思われますか…」
危うくというよりは、怖い、だな。
宇喜多直家が近くにいると、毒殺されたり狙撃されそうやん?
戦を仕掛けてくるだけなら、迎え撃つなり逃げ出すなり対処のしようがあるけど、暗殺は防ぐの難しいし。
まあ、直家の近くに居なければ大丈夫だと思うけど。
「まあ、備前の話だ。俺には関係なかろうが、下手に力を持たれると気が休まらぬというだけの話だな」
織田家が備前とガッツリ関係するのは、まだまだ先の話だし、少し考えすぎたかな。
「殿、某が宇喜多三郎右衛門の事、少し調べてみても宜しいでしょうか?」
弥八郎が宇喜多直家対策を考えてくれるなら心強い。
「頼めるか?」
「はっ!」
なんとか宇喜多家の勢力拡大を防ぐ方法を考えて欲しい。




