281 赤松政秀の救援に向かおう
摂津で色々工作をしていると、領地から呼んだ連中が続々と兵を率いてやってくる。
大久保の谷野大膳、水沢の斎藤内蔵助、久々利の森勝三郎、大森の青木次郎左衛門、柳津の加藤喜左衛門、蓮台の於勝…?於勝?
いや、於勝は呼んでなかった…よね?
「兄上!今度こそ、俺の初陣だ!」
う~ん、まだ初陣には早いと思うんだけどなぁ。
大丈夫なのかと、於勝のお目付け役を命じている堀田新右衛門に目をやると頷かれた。
「御隠居様からの許しは得ております」
爺ちゃんが許可を出したのか…なら追い返す訳にもいかないなぁ。
この前の戦の時も、爺ちゃんが許可出したんだっけ?
いや、あの時は親父だったか?
親父も爺ちゃんも、於勝に甘くない?
しゃあないな、どうせやるなら折角の鬼武蔵の初陣だし、大手柄を立てさせてやりたい所だけど。
流石に坊主大量虐殺のインパクトには程遠い初陣になるだろうが。
…いや、そんなインパクトは要らないな。
無難で真っ当な初陣を飾ってもらおう。
柳津城城主である竹腰摂津守の代わりに兵を率いてきた加藤喜左衛門と…運悪く京に来ていたせいで、喜左衛門に将の座を奪われてしまった山内次郎右衛門にも、於勝の補佐を頼んでおこうか。
喜左衛門と次郎右衛門は俺の最古参の家臣の1人だから、於勝も2人の言葉を無視出来まい。
兵数も合わせれば40程になるし、多い方が目立つからな。
蓮台の兵だけだと、於勝が勝手な行動をしても分からんかもしれないし、鈴は付けておこう。
それに於勝にばかり注意を向けていられない。
義弟の青木次郎右衛門も、久々の戦いで張り切っている。
こいつに何かあると妹が悲しむから(たぶん)、討ち死にしないように気を配っておかないと。
そうこうしている内に今回召集した兵が全員到着したので、主だった者達を集めて、今後の事を話す。
「さて、皆に集まってもらったが、皆も知っての通り、既に篠原家が越水城より退いた為に、多少摂津での予定が狂った。残念ながら摂津での戦が無くなった故、我等はこのまま播磨国龍野の赤松下野守殿の後詰めに向かう」
皆も異存はなく、頷いている。
於勝などは、さっさと行こうぜ、とか思ってそうだし。
俺は隣に座る島田弥右衛門殿に視線を向け、話の続きを任せる。
「既に別所家、池田家には話を通してある。我等は兵庫津、林ノ城、高砂城を通り、北脇城の別所孫右衛門殿と合力して小寺家の御着城を攻める事となっておる」
うん、面倒臭い交渉や手続きを弥右衛門殿が引き受けてくれるので、俺は楽が出来て有り難い。
「新たに動きがあれば当然変わる事もあるが、先ずは兵庫津へ向かい播磨の動向を見る」
「弥八郎等に播磨の事を探らせておる故、何かあれば道中にて知らせがあろう」
弥右衛門殿の言葉に付け足すと、皆に兵庫津への移動を命じる。
皆が陣に戻ると人払いをし、弥右衛門殿と2人になる。
「傳兵衛殿、殿は儂と傳兵衛殿に仔細任せるとの事に御座る。傳兵衛殿の懸念も尤もなれば、儂も京の民部少輔殿も下野守の領地を削る事に異存は御座らぬ」
弥右衛門殿の言葉に頷く。
まだ摂津へ出陣する前に、弥右衛門殿や村井民部少輔殿に、播磨攻めに関する自分の意見を相談しておいたのだが、その意見に対する殿の許可が下りたみたいだ。
浦上家に奪われた領地の一部は、取り戻しても赤松政秀には返さないで、後詰めの報酬として奪ってしまおう。
赤松政秀の娘が、足利義昭と良い関係になっているから、嫡男が生まれて姻戚として調子に乗る前に、念の為に政秀の力を削いでおきませんか?という提案だったのだが、殿のGOサインが出たようだ。
「しかし、某の発案ながら、どこまでやって良いものか…」
いやぁ~、自分で提案しておいてアレだが、播磨の国人達…主に政秀が怒るんじゃないかなぁ。
「殿からは、此方の面目もある故、下野守殿が敗れる様な事があっては困るので、万が一にも龍野が攻め落とされる事がない様に、との事。その後の事は、儂と傳兵衛殿で追々決めれば良かろう」
赤松政秀が滅んじゃダメって事か…、
「承知いたしました。ですが、龍野への後詰めは摂津衆だけでも十分な筈。後詰めは摂津衆に任せ、播磨より浦上家を退かせる事に注力致しましょう」
赤松政秀は救わなきゃいけないが、早くに助かってしまうと領地が削れない。
その時の播磨での状況で、どこまでやれるかが変わってしまう行き当たりばったりの作戦だなぁ。




