279 初陣リベンジ
森勝視点です。
尾張国葉栗郡蓮台森勝
「於勝様!傳兵衛様より柳津の竹腰摂津守へ出陣の要請があった様に御座います!」
「なんだと!」
小次郎からの報告に驚く。
兄上は、伊勢攻めより外され、京に残っておられるはず。
先日、近江で何やらあって、戦があったようだが、兄上はさっさと鎮圧してしまい、京に戻られたと聞いていたが…
「何やら此度は播磨へ向かうとの事に御座いまする」
なんと、流石は兄上!
『傳兵衛のある所、武功あり』と密かに呼ばれる事はある!
兄上の側におれば、武功を立てる機会に事欠かぬな!
「よし、俺達も兄上の元へ向かうぞ!」
前回の上洛では戦自体が無く、敵と槍を交える事すら無かったが、今度こそ首級を上げてみる!
「しかし、傳兵衛様に呼ばれておるのは柳津の摂津守殿で、我等が勝手に出陣しては傳兵衛様に怒られるのでは?」
九一郞が、恐る恐る進言してくる。
確かに兄上の御不興を買えば、戦場に行ったとて武功を立てることは叶わぬやも知れぬ。
何か良い手立てはないものか。
「御隠居様に御頼み致しましょう。御隠居様の御許しがあれば、傳兵衛様に怒られる事もありますまい」
「それだ!よし、早速爺ちゃんに許しを貰って来よう」
小次郎の言う事に飛びついて、爺ちゃんに出陣の許可を貰いに行く。
「駄目じゃ。第一、お主等は元服もしておらぬではないか。元服もしておらぬ童が戦場に立ったとて、何の役に立とう」
爺ちゃんに許可を貰いに来たが、あっさりと断られた…話が違うではないか、小次郎…
いや、こんな事で諦めてなどいられない!
「俺は兄上に蓮台を任されている!蓮台より兵を出すならば、それを率いるのも俺の役目だ!」
「お主が任されておるのは、蓮台の統治であって、兵を率いる事は含まれておらぬ。諦めよ」
くそう!このままでは、出陣出来ぬ!
何とかせねば!
兄上ならば、如何するであろう…
俺が良い手が無いかと考えていると、俺に変わって九一郞が爺ちゃんに食って掛かる。
「父上は我等を元服前の童と申されるが、傳兵衛様は元服前にも関わらず、大将首を取られたではないか!某は今、その頃の傳兵衛様と同じ歳、森家の男子として何の不足が有りましょうや!」
兄上の初陣を引き合いに出すのは、織田家の常套句。
そうだ、兄上が熱田にて石橋某の首を取ったのは、九一郞と同じ九つの頃。
その頃の兄上よりも年長となった俺が、戦場に出て何の不都合があろうか!
「傳兵衛のあれは、熱田神宮へ戦勝を祈願する為に赴いて、運悪く戦に巻き込まれただけの事じゃ」
その言葉に小次郎が反論する。
「あの傳兵衛様が、運悪く巻き込まれたなどという事が有りましょうか!何処からか熱田で戦がある事を知り、戦勝祈願を理由に首を取りに行ったに違いありませぬ!それが証拠に、確りと戦仕度を終えてから熱田へ向かったというではありませぬか!」
「…う…む」
これには爺ちゃんも、薄々そうではないかと思っているのだろう、言葉に詰まっている。
「此度はその兄上の許で戦うのだ。何の不安があろうか!」
怯んだ爺ちゃんに対し、止めとばかりに追い討ちをかける。
「左様に御座います!傳兵衛様が何の策も無く、戦に挑まれる筈もありませぬ。於勝様も九一郞も某も危なげ無く初陣を飾れる事に御座いましょう」
小次郎、九一郞と共に爺ちゃんの目をじっと見つめる。
我が家での兄上への信頼は、かなり厚い。
何せ戦では未だ負け知らずの上、森家が裕福なのも兄上の御陰だからな。
「良かろう。確りと傳兵衛の役に立つのじゃぞ」
よし!爺ちゃんの許しも出たし、急ぎ兄上の許へ向かうぞ!
「九一郞!小次郎!急ぎ摂津へ向かうぞ!一番に兄上の許へ辿り着くのだ!他の者共に先を越されるな!」
「「おう!」」
今度こそ大将首を取って、華々しく初陣を飾ってやろう!




