277 日典上人
さて、兵が揃うまで多少時間があるので、少しでも情報を仕入れておきたい。
近くに播磨や赤松家周辺の情報を知ってる人はいないかなぁ?
「でしたら、日典上人に御尋ねするのは如何に御座いましょう」
俺が、誰に会えば良いかと考えていると、山内次郎右衛門が日典上人とやらはどうだと提案してくる。
はて?日典か、どこかで聞いたような…って、この寺の貫主だわ!
流石に宿にしている寺の貫主の名前くらいは覚えている。
ここ妙覚寺は、殿も上洛した時に定宿として利用してるし、直ぐに思い出せたわ。
因みに、殿が妙覚寺を定宿としているのは、先代の貫主であった観照院日饒殿が、殿の義父である斎藤道三の子だったからみたいだ。
「うん?日典上人は播磨に御詳しいのか?」
「播磨では御座いませぬが、確か備前松田家の家臣の出であったかと」
へっ?備前の出なの?
しかも、松田家の家臣…
確かに備前国は法華宗の影響が強い国だし、その上、松田家は法華宗に狂ってるからな。
「成る程、直ぐに上人の話を聞かなくては。しかし、次郎右衛門はよく上人の生国を知っておったな」
「某の家も法華宗ですので、折角の機会と日頃日典上人の御話を伺っておりました故」
ああ、次郎右衛門の山内家は、ウチの家臣達の中では珍しく法華宗だったな。
門派は違ったと思うが、偉い人の話は聞きたいのだろう。
「次郎右衛門、早速日典上人に話を通してくれ。備前、播磨の話を聞きたいと」
「はっ、直ちに!」
次郎右衛門に日典との面会のアポを取りに行かせると、直ぐに許可が下りる。
早速、話を聞きに日典の許に向かう。
「本日は御忙しい所を、御時間を割いていただき誠に感謝致します」
「何、傳兵衛殿の頼みとあらば吝かでは御座いませぬ。なんでも播磨の近況が御知りになりたいとか」
日典は快く出迎えてくれる。
「はい、今播磨で行われている戦についてに御座います。赤松宗家と龍野赤松家の戦は、別所家、摂津衆、備前の浦上家や宇喜多家まで巻き込む大きなものとなっております。某は播磨や備前の事には疎く、それで上人に御話をと思いまして」
「成程。確かに拙僧は、備前松田家に仕える大村家の出に御座います。大村家の出雲守殿より、近々の知らせも届いております故、播磨ではありませぬが備前の話で良ければ御教え致しましょう」
「有難い!是非とも御願い致します」
良かった!親切に教えて貰えるようだ。
播磨でなく備前の話でも、赤松宗家の援軍である浦上家や、その浦上家を裏切り幕府側に付いた宇喜多家の動きは分かるだろう。
「此度の戦、始めは備前の浦上家が赤松宗家に合力して龍野赤松家を攻め、優位に戦を進めておった様ですが、摂津衆が龍野への後詰めに出ると一転、赤松宗家の方が押され出した様に御座いますな」
そこは知っているので、黙って頷いて先を話すよう促す。
「赤松宗家が押され出すと、浦上家に従っておった宇喜多三郎右衛門殿が離反。浦上家を攻め立てておる様に御座います」
う~ん、やっぱり宇喜多直家は浦上宗景からの独立を図ってきたか。
史実なら、赤松政秀が浦上宗景に降伏した事で、勝ち目なしと詫びをいれて再び浦上家に従うのだが…
「松田家は、先年の明善寺での戦に後詰めを出さなかった事で、宇喜多家と険悪になり戦となる寸前であった様ですが、此度の戦で宇喜多家と和解したとの事に御座います」
「松田家は、宇喜多家に与したのですか?」
えっ?松田家滅んでないの?
「宇喜多家としては、浦上家より独立する好機を逃したくはない、松田家としても宇喜多家と事を構えたくはないという事でしょう」
本当なら松田家は、今年の7月に宇喜多直家に攻められて滅亡してるはずなのに…
要らん不確定要素増やすなよ!
日典に松田家の話を中心とした話を聞き終えると、播磨、備前のお寺の話となる。
やはり法華宗の寺は多いらしく、室津には妙覚寺の末寺である大聖寺があるらしい。
日典に、播磨や備前の末寺が俺達に協力するよう要請する書状を書いて貰う。
これは念の為に、他の門流にも協力を御願いした方が良いのかな。
妙顕寺、本能寺、本国寺等の、織田家と関係のありそうな法華宗の寺を巡ってみるか。




