２７６　尼崎への戦支度

　村井民部少輔殿からの話で、島田弥右衛門殿と共に播磨へ出兵する事になった俺は、伊勢攻めから外されて暇をもて余しているであろう美濃の久々利城、大森城、尾張の柳津城、伊勢の水沢城、大久保城の連中に、至急兵を率いて尼崎まで来るように命じる。

　これでまともに戦えるだけの兵数は確保出来るだろう。

　この前の勢多での小競り合いとはレベルが違うだろうし…多分。

　伊勢の川尻城の連中は親父に従って北畠家を攻めているし、尾張の戸田城は長島の願証寺対策の為に動かす気はない。

　此奴等には、兵糧だけ融通してもらおう。

　水沢城の周辺の三重郡の与力連中も、殿に従って北畠家を攻めているので兵を出させる事は出来ない。

　今回呼び付ける事が出来るのは、俺の家臣だけだ。

　あっ、勿論親父からの借り受けている与力は、呼び出しても大丈夫だが。

　蓮台城の於勝は…まあ、蓮台は小領で大した兵も出せないし、呼び付ける必要もないだろう。

　さて、兵が整う前に事前準備をしておかないとな。

　俺は、情報収集に力を入れているインテリ武将だからな。

　何の準備もなく現場に行って、行き当たりばったりの、物事を何でも力尽くで解決するような他の脳筋共と違うのだよ。

「宇助、上野介、お主等は先に瓦林城へ赴き、三好家や摂津、和泉衆の様子を探れ」

　渋谷宇助と大平上野介に、瓦林城の戦況や援軍に向かっているはずの摂津や和泉の国人衆の動きを調べさせる。

　他の部隊と歩調を合わせて、ウチの兵の損害はなるべく減らさないと。

　この戦いは所詮前座だからな。

　それに、どうせ摂津での戦は、俺より偉い人が指揮を執るだろうしな。

　河内の畠山家とか、三好家の所とか。

「三郎左衛門、彦市、伝内、弥八郎は、播磨の状況を探って参れ。赤松宗家、小寺家と別所家、摂津衆との戦況、龍野赤松家の状況、浦上家の様子など、なるべく詳しく調べて参れ」

　三雲三郎左衛門、多羅尾彦市、建部伝内、本多弥八郎には、本題の播磨の状況を調べてもらう。

　瓦林城なんかより、こっちの方が大事だからな。

　史実通りならば、摂津衆はもう播磨から撤退していても良いはずなんだが、まだそんな動きは聞こえてこない。

　このまま何事もなく押し切れてしまうんだろうか…

　播磨の状況を詳しく調べないと。

「右京進は京に残り、後の事を宜しく頼む。後続の者の事も頼むぞ」

　いつも通り平野右京進に、京の留守を任せる。

　後から来る連中の事も、良い様にやってくれ。

「殿、某が岩倉より兵を集める事も出来ますが？」

　先頃、家臣となったばかりの山本修理大夫尚治が、自分の実家から兵を借り受けてくると言う。

　山本家は、本圀寺の変の時に三好家に付いたお陰で取り潰し寸前だったのを俺が執り成したので、その借りを返しておきたいのかな。

　でも本当は、それを理由に兵を集めて、自分の出世に使いたいというのが本音だろうが。

「集められるならば集めてもらおうか。但し無理をして、集める必要はないがな」

　播磨での戦いが何れ程の規模になるか分からないので、兵の数はあって困る事はないしな。

「はっ！」

　修理大夫は頷くと、早速岩倉へ兵を集めに向かった。