274 永禄十一年七月
七月に入ると伊勢を攻めている織田軍は、阿坂城を落として、大河内城の攻略を開始する。
伊勢攻めに参加している前野将右衛門からの報告では、織田軍は大河内城を四方から囲もうとしているが、中々上手くいかないらしく、膠着状態に陥った様だ。
将右衛門には長野工藤家や北畠家の家臣の引き抜きを頼んでいたのだが、成果なしという素晴らしい報告をくれた。
北畠家からの人材で一番人気だろう、後に滝川雄利を名乗る源浄院主玄は、史実通りに滝川伊予守殿に取られたみたいだし。
使えねぇぞ!将右衛門!
やっぱり主玄を引き抜く為にも、伊勢攻めに参加させて欲しかったかも?
北畠家の家臣の殆どは、この戦いの後に北畠家の養子となるはずの、殿の次男である茶筅様の家臣となるはずだからなぁ。
誰か有名武将で牢人する奴なんていたかなぁ…?
取り敢えず将右衛門には、伊勢志摩の水軍をスカウトしろと命じておく。
九鬼嘉隆が伊勢志摩で、敵の水軍を攻めて吸収合併しているだろうから、吸収されるのを嫌って逃げ出す奴等をウチにスカウトして来て欲しい。
舟と水兵は、幾ら居っても良いものですから!
無名な奴でも役に立つはず!
俺はというと、京で政務を行ったり、下田上庄や大石庄へ出向いて伊賀からのちょっかいがないか様子を確認したりしている。
しかし、良いよね、下田上庄は。
米は取れるし、京にも近い…志賀の陣が起こったら、真っ先に駆けつけられる位置にある。
この土地、俺にくれないかなぁ…
なんなら、三重の領地と交換でも良いんだけど?
他に栗太郡の関係で言えば、元関津城の城主で討ち死にした宇野源太郎の次男である源之丞国治という者が仕官を願い出てきたので、下田上庄と大石庄を任せている奥田三右衛門の下に付けて働かせている。
三右衛門も地元の者がいたら助かるだろうし。
まあ源之丞は、織田家の伊勢攻めが終わって、正式な領主が決まれば、そっちの方に仕官し直すだろうから、あまり関わり合いになる必要もないかな。
あと、ウチに仕官した者といえば、岩倉山本家の元嫡男で、正月の戦で三好家に付いて廃嫡された山本若狭守の嫡男、修理大夫尚治って奴がやって来たが、そっちはまあいいか。
他に変わった事といえば、先頃伊賀から仁木左京大夫って奴が上洛して、義昭に挨拶に来ていたらしいが、俺は大石庄の妙見山城へ出向いていたので出会ってはいない。
近江を通らずに、伊賀から南山城に出てから北上して来たらしいし。
まあ、争ったばかりの近江を通るのを避けたんだろな。
俺も仁木長政なんて、最マイナーな守護大名に興味なんてないし、会いたいとも思わないんだけどな。
伊賀衆には、天正伊賀の乱での面倒臭そうな印象があって、なるべく係わり合いになりたくないし。
長政が、ちゃんと伊賀を治めてくれるなら仲良くしたいところだけど、どうせ無理なんでしょ?
まあ、仁木長政の事なんて、どうでも良いや。
播磨を攻めている摂津衆や別所家は順調に置塩赤松家や小寺家を追い詰めているらしい。
ただ一つ問題があるのは、幕府に援軍を頼んできた龍野赤松家の赤松政秀が、摂津衆や別所家の活躍に調子に乗って小寺家を攻め、逆にけちょんけちょんにされて逃げ帰った事だろうか。
お陰で龍野赤松家の戦力が、がた落ちになったらしい。
赤松政秀がどうなろうと知った事ではないから良いんだけどね。
寧ろ、小寺官兵衛の戦力を大分削ってくれて有り難うってもんだ。
後は赤松政秀が、浦上宗景相手にどれだけ粘ってくれるかかな?
史実では、播磨へ出兵している摂津衆は、途中で引き返す事になったはずだが、この世界ではどうなんだろ?
年代と状況は少し違うけど、その通りになるんだろうか?
う~ん…




