271 商人?
襲撃のあった翌日、岸新右衛門が、商人が俺に会いたいとやって来た、と知らせに来た。
何でも賊の捕縛を手伝いたいらしい。
褒美が目当てなのか、それとも恩を売って贔屓にしてほしいのかな?
土地勘のある奴等の協力は有難いので、早速会う事にする。
「儂が森傳兵衛だ」
俺の前に控えているのは、商人と言われれば商人ぽい、まだ若そうな2人。
「手前は伊賀と近江にて、商いをさせて頂いております城戸弥左衛門と申します。此方は同じく商いをしております杢右衛門に御座います」
城戸弥左衛門と杢右衛門とかいう奴が頭を下げる。
うん?城戸弥左衛門?
「なんでも賊の捕縛に手を貸してもらえるとか」
「はっ、手前共は此の辺りで商いをしており、土地勘も御座います。賊の捕縛の御力になれるのではと思い、罷り越した次第に御座います」
土地勘のある奴が協力してくれるなら助かるけど…城戸弥左衛門?
あの信長暗殺未遂で有名な音羽の城戸…いや、流石に同姓同名かも知れんし、本人だったとしても狙撃犯とは限らんけど…
鉄砲の名手といわれる城戸弥左衛門が犯人だったとしたら、標的の俺を外すなんて事があるか?…いや、殿の暗殺に2回失敗してるわ。
「土地勘があるのは助かるな。良かろう、お主等に助力を頼むとしよう。何か望みはあるか?」
怪しいだけで殺す訳にもいかないし、ちょっと様子を見るか。
「なれば、傳兵衛様は昨日賊の放った鉄砲の弾を太刀で斬られたと伺いました。是非ともその太刀を拝見したく存じます」
うん?太刀が見たい?
「構わぬが、その様な事で良いのか?」
弥左衛門に確認を入れるが、弥左衛門は真剣な表情でこちらを睨む様に見つめてくる。
「はっ、是非とも」
そんな願い事とか、全然商人ぽくないけど、設定を守らなくていいの?
「良かろう」
弥左衛門に太刀を渡すと、真剣に折れた箇所を調べている。
ああ、本当に鉄砲の弾を斬ったか確かめに来たのか。
そんなん、自分の命を危険に晒してまで確かめる様な事か?
うん?てことは、こいつが太刀を折った犯人で、粗々確定か?
俺は弥左衛門の表情の変化を見逃すまいとじっと見つめていると、微かにニヤリと笑みを浮かべるのが分かった。
恐らく太刀を見て、弾を斬ったのではなく、弾が太刀に当たって折れたのが分かったのだろう。
「誠に有難う御座いました」
俺が弾を斬ったのではないと知って満足したのだろう、弥左衛門は太刀を返そうと差し出す。
太刀を受け取ろうとした護衛の新八郎を制して、俺が弥左衛門から直接太刀を受けとる。
「懸念が晴れて満足であろう、弥左衛門」
俺はそう言うと、返してもらった太刀を弥左衛門の腹に突き刺した。
「なっ!」
皆が驚きで動きが止まっている中、俺は弥左衛門の腹に刺さった太刀を引き抜き、呆然としている杢右衛門に突きつける。
「動くなよ、杢右衛門。お主等、二人を逃がすな!」
「な、何を…」
腰の抜けている杢右衛門と、腹を刺されて倒れている弥左衛門を、家臣達に囲ませる。
「お主等が昨日の賊であろう?」
ニヤリと笑みを浮かべて、杢右衛門を睨みつける。
「な、何の事に御座いましょう」
しらばっくれる杢右衛門だが、突然の出来事に動揺しているのだろう、上手く誤魔化せていない。
「城戸弥左衛門…伊賀国音羽の出であろう?鉄砲の名手との噂だが、大方此度の事も、儂等を手伝う振りをして伊賀へ戻る腹積もりであったのだろう?弥左衛門の様子を見るに、儂が鉄砲玉を斬ったとの噂を聞き付けて、確かめる為にのこのこやって来たというのもあるやも知れぬがな」
「なっ!」
俺の言葉に驚く杢右衛門。
杢右衛門は慌てて周囲を見回しているが、既に周りは俺の家臣達に囲まれていて逃げる事は不可能だ。
「さて、杢右衛門。素直に話せば伊賀に返してやろう。お主等が此度の襲撃を企てたのは間違いないな?」
「はっ、間違い御座いませぬ」
杢右衛門も観念したのだろう、俺の無事に返してやるという言葉を聞いて素直に答える。
「何故、儂を狙った?」
「大日山城に篭る宮田長兵衛殿等を救う為に、山岡対馬守若しくは森傳兵衛殿を撃ち取り、兵が混乱した所を一気に伊賀まで逃がす算段に御座いました。傳兵衛殿の緋猩々の陣羽織は目立ちます故、傳兵衛殿の方を狙った次第に御座います」
ほれ見ろ!こんな目立つ格好だから、狙われたんじゃないか!
「仕掛けたのは、お主等二人だけか?」
「もう一人居りましたが、今朝此処へ参る前に別れました」
いや、普通は此処に来たりしないからな。
お前等の方がおかしい。
「その者の名は?」
「印代村の服部甚右衛門に御座います」
う~ん、城戸弥左衛門っていう大物を仕留めたから、怒りは収まっているんだけど…追わせた方が良いのかなぁ。
「新右衛門、念の為に甚右衛門を追わせよ。別段逃げられても構わぬが、近隣の者共が命に従うかどうか見たい」
「はっ!直ちに!」
岸新右衛門は、俺の命令に直ぐ様駆け出していく。
たぶん大丈夫だとは思うが、近隣の者達がこっちの言う事をちゃんと聞いてくれるか、確かめておこう。
サボってる奴がいたら、ブラックリスト入りなり、改易なりすればいい。
まあ、これに引っ掛かるような間抜けな奴はいないだろうけど。
その後、杢右衛門から色々情報を聞き出すと、どうやら今回の事は、現在織田家に攻められている北畠家が、六角家の復興を目論む義定を唆して近江を攻めさせ、織田家の兵を退かせるのが目的らしい。
だったら勢多を目指せば良いものを、義定が、甲賀の国人衆なら皆味方に出来る、と言い張ったので、そちらに主力を傾ける事になったらしい。
結果、甲賀衆は思ったよりも裏切らず、主力の兵が退いた為に取り残された宮田長兵衛の脱出を手助けしに、城戸弥左衛門等が来る羽目になったとか。
あとは、俺の太刀を折ったのは城戸弥左衛門で間違いなく、他の二人の弾は人に掠りもしなかった様だ。
うん、城戸弥左衛門の名前を聞いて犯人と決めつけたけど、間違ってなくて良かった良かった。
「さて杢右衛門、お主には大日山城に篭る宮田長兵衛の許へ赴き、既に六角中務大輔は敗れ、兵を退いたと伝え降伏を促せ。その役目を以て、お主を見逃そう」
「はっ!」
ついでだから杢右衛門には、大日山城への使者となってもらおう。
頑張って籠城している宮田長兵衛に、その頑張りはもう無意味なのだと杢右衛門に知らせてもらうのだ。
これなら大事な家臣を敵地に送らずに済むからな。




