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討ち死になんて勘弁な  作者: 悠夜
279/554

269 太刀を折られた…

 大石弾正左衛門との約束の期日が来たので、関津峠を越えて妙見山城へ向かおう。

 さて、素直に城を明け渡してくれるかな?


「殿、太刀紐が解れております」


 仙石新八郎の言葉に腰を見ると、確かに太刀を吊るす為に腰に巻いている紐が解れている。

 う~ん、それほど使ってないんだけどなぁ。

 でも、切れて太刀を落としたら、みっともないしなぁ。


「新八郎、替えの紐を頼む」


 馬を止め、太刀紐を外す。

 替えの紐が来るまで、太刀を眺めていようか。


 この太刀は、義昭から返してもらった祖師野丸の写しの影打ちだ。

 祖師野丸を元あった祖師野八幡宮に御返しするのに、堀久太郎に頼んで写しを作ってもらったのだが、出来上がったと聞いて取りに行くと、太刀が三口並べられていたのだ。

 まあ、太刀の写しを頼んだとしても、一口だけ打って完成させられるはずもない。

 何口か打った中で、良い物や気に入った物を選ぶんだから、複数あって当然だ。

 普通は一口を選んでもらい、それに銘を入れて納め、残りは無銘で売りに出したりするらしいのだが、俺は三口共下さいと奪って来た。

 打ったのは、関左衛門尉兼道という美濃から京へ移って来たばかりの刀工で、完成した太刀は、かなりの出来だと思う。

 出来上がった三口の太刀の内、何れが良いかと問われたので、全部下さいと御願いした。

 三口の中で、一番出来の良い…気に入った物を真打として銘を入れてもらい鑑賞用に、一口は手間賃として堀久太郎に渡し、最後の一口を普段使いとして今腰に佩いている。


 そんな事を思い出しながら太刀を拵から抜き眺めていると、辺りにパーンという音が何度か響く。

 と、同時に太刀が弾かれて、手からすっぽ抜けそうになる。

 反射的に太刀をギュッと掴み、持っていかれまいと引き寄せると、太刀を振り切った形になる。

 ちょっと肩が痛くて、顰めっ面になりながら、音がした方を見やる。

 鉄砲による狙撃か…


「殿!御無事に御座いますか!何をしている!賊を捕らえよ!」


 岸新右衛門が、俺の周りを固めつつ、賊の捕縛を命じる。


「大事ない。皆も無事か?」


 銃声は複数聞こえたので、誰か当たった奴はいないかと皆に問うが、どうやら誰も当たっていない様で良かった。

 相手は、下手くそかよ。


「一度戻りましょう。追っ手の手配もせねばなりませぬ」


 追っ手か…こんな一発も掠りもしない腕前の奴等を追ってもなぁ。


「ところで殿、まさかとは思いますが、その太刀で鉄砲の弾を斬られたのでしょうか?」


 新八郎が問うてくるが、太刀で弾なんか斬れる訳ないじゃないか。

 何を言っているんだ?

 ああ、そういえば太刀を握ったままだったな…嫌な予感がする。

 握ったままになっている太刀を見ると、切っ先の部分が折れて無くなっていた。

 鉄砲の弾に当たって折られたのか…


「紛れ当たりに過ぎぬがな…未熟故、太刀を折ることになってしまった」


 素直に折られたと言うのも悔しいので、振ったら運良く当たってしまった事にしておこう。

 俺の言葉に新八郎が息を呑む。


「未熟などと、とんでも御座いませぬ!当てる事すら至難の技に御座いますぞ!」


「左様に御座います!殿は矢だけでなく鉄砲玉も切り捨てられますか!」


 周りの家臣達も騒ぎ出す。

 ゴメン、調子に乗りました。

 勘弁してください。


 しかし、作ってもらったばっかりの太刀なのに…鉄砲をぶっ放して太刀を折った野郎、ぶっ殺す!


「その様な事よりも周辺の者共に賊を捕らえるよう言い渡せ!必ず捕らえて、儂の前へ連れて来い!」


「殿、先ずは一旦陣へ御戻りを。殿の守りを固めねば、我等も動けませぬ」


 俺が話題を逸らそうと賊を追う様に命じるが、三右衛門から窘められる。

 三右衛門の言葉で、少し冷静になる。

 そうだな、先ずは陣へ引き返さないと。

 俺の安全が第一だ。


「済まぬな、頭に血が上っておった様だ。直ぐに帰陣する」


 素直に三右衛門の言い分を認め、大日山城を攻略中の渡辺半蔵率いる森家の陣へと戻る事にした。

 しかし、まさか俺が狙撃されるとは…全弾外れたから良かったものの、ここで俺が死んでいてもおかしくはなかった。

 冗談じゃない!



 陣へ戻ると早速、賊の捜索の手配をする。

 襲撃現場は、陣からそれ程離れてなかったから、今から街道を封鎖しても十分間に合うとは思うんだけど。


「殿、山岡家、大石家及び田上庄の各家に伊賀への街道を封じ、賊を捕縛するよう命じました」


 三右衛門の報告を聞いて一息吐く。

 俺を狙撃しようとした奴等は許さねえ!

 特に太刀を折った野郎は、ぶっ殺す!


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― 新着の感想 ―
[一言] まさかの斬鉄剣。折角茶の湯好きなのですから、刀の銘は狙撃され仲間の古田織部の茶杓にあやかって玉あられ(玉すべり)ですかね?次点で織田有楽斎の玉ぶりぶり?w
2021/05/05 20:22 退会済み
管理
[良い点] 話が面白く安心して見続けられる [気になる点] 本能寺の変を起こすのか止めるのか気になる [一言] 歴史小説を多く見てきたが269話にもなって主人公が嫁を取らず衆道ルートで可哀そう・・これ…
[一言] 雷切ならぬ玉切の誕生逸話となりますでしょうか
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