263 石山城へ【地図あり】
東海道を通って山科を抜け近江国へ入り勢多橋を目指すと、途中で勢多城を探っていた三右衛門が戻ってくる。
「三右衛門、勢多は如何であった?」
「はっ!敵は関津、大日山両城を焼き、今は勢多城と対峙しております。対馬守殿率いる窪江の兵と共に防いではおりますが…」
窪江城は山岡景隆の弟の対馬守景佐の城らしい。
南伊勢攻めには加わらなかったのね。
それは、ラッキーだな。
「石山城は、どうした?」
対岸にある石山城は、三弟の景猶が治めているそうだが、援軍は出していないのだろうか?
「城主の備前守殿は伊勢に居られます。 それに石山城は勢多川の対岸にある為、敵に勢多橋を押さえられてしまった今は、援軍を送れぬ様に御座います」
それは、俺達も勢多川を渡れないって事やん…う~ん、困ったな。
「他の栗太郡の諸将は如何した?」
「青地家の駿河守(青地茂綱)様が伊勢に出陣されておられる隙を突き、一門の伊豆守が城を奪い中務大輔に味方した為、近隣の諸将は動けませぬ。下田上庄の諸将も両陣営に分かれ争っており、とても後詰めを出せる状況では御座いませぬ」
うわぁ…援軍は無しかよ…って伊豆守って誰やねん!
どうやら青地伊豆守高直は先代当主の甥で、蒲生家から青地家の養子となった青地茂綱が当主にならなければ、ひょっとして当主になれたかもしれない人物らしい。
面倒な事を…
「…一先ず石山城へ向かう」
よし、切り替えて地元の人の話を聞こう!
何か川を渡る方法を考えないと…
山岡景猶が城主を務める石山城。
伊勢にいる景猶の代わりに城を預かっているのは、嫡男の五郎右衛門景政だった。
「よくぞ御出で下された。鑓中村を討った傳兵衛殿が来られたからには、伊賀衆など物の数では御座らぬ!」
中村新兵衛って、そこまでネームバリューあるのか…ピンとこないなぁ。
中村新兵衛を討って以来、家臣達は俺が出掛ける際には猩々緋の陣羽織を着るよう薦めてくる事が多い。
俺が目立たない灰色や茶色の陣羽織を着ようとすると、周りの者達は見栄えが悪いと文句を言ってきて、甚だ評判が悪い。
今回も嫌だと言ったのに、緋色の陣羽織を着ての出陣だ。
こんな悪目立ちした出立ちで、敵の標的にされたらどないするんや!
いやいや、今はそんな事より、川を渡る方法を聞かねば。
「やはり橋を焼かれる事を考えると、勢多城への援軍は難しいか…五郎右衛門殿、他に川を渡る方法は無かろうか?」
五郎右衛門の話を聞くと、やっぱり勢多橋を渡るのは難しいみたいだ。
かと言って、今から舟を集めるのにも時間が掛かる。
「実は此処より下流の南郷では、勢多川と合流する大戸川よりの土砂が流れ込み、浅瀬を徒で渡る事が出来るのですが…」
へっ?歩いて渡れるの?
でも、敵の大石家も地元だから、そこから渡れる事は知っているよね?
「しかし、それは大石家も存じておりましょう」
「それが、大石家当主の金右衛門は、関津城を攻めた折、宇野源太郎殿と相討ちとなったらしく、大石家は自領へ退いた模様で、敵が浅瀬への備えをしておる様子は見受けられませぬ」
おお!宇野さんナイス!
でも、大石家は自領に引っ込んだんだ…
あとは、地の利の無い伊賀衆のみか。
「ほう、ならば浅瀬を渡り、伊賀衆を挟み撃ちに出来るか」
しかし、五郎右衛門は首を振る。
「いえ、南郷の手前にある平津城の井上越前守が、未だ旗幟を明らかにしておらず、それもあって兵を動かす事が出来ませぬ」
はっ?今も沈黙してるんなら、利敵行為なんだから敵だろうが。
さっさと潰すか。
「井上越前守には、至急旗幟を明らかにして頂こう」
渡辺半蔵等の方を見ると、皆から頷きが返ってくる。
家臣もヤル気みたいだし、速攻で平津城を片付けて、勢多川を渡ろう。
あっ、五郎右衛門には、俺達が渡河する頃合いに、陽動で兵を出してもらおう。
兵を出すのが無理なら、大量の篝火でも灯して、敵の目を引き付けてもらえれば有り難いかな。




