表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
討ち死になんて勘弁な  作者: 悠夜
27/554

 27 加藤弥三郎

加藤弥三郎視点です

 尾張国清須城  織田家家臣 加藤弥三郎


 桶狭間より戻り、殿の側に侍っていると、殿の馬廻をしている兄の又八郎がやって来たと報せがあった。

 兄を控えの間へ通すよう伝えると、その旨を岩室長門守殿へ伝え会いに行く。


「兄上、如何した?」


 兄は難しい顔をして、文を差し出してくる。


「父上より文が届いた。火急に殿へ報せよとの事だ」


「熱田で何かあったか?」


 文を受け取りながら何があったのかを問う。

 熱田の事だ。

 滅多な事はなかろうが、火急の用というのが気にかかる。


「荷ノ上の服部左京進が熱田へ攻め込んだらしい」


「なんと!それで熱田はどうなったのだ?皆は無事か?」


「うむ、無事服部党を撃退し、熱田に被害も殆どないそうだ」


 ほう、既に撃退済みならば、火急の用とは何であろうか…


「その戦いにおいて、左京進を捕縛したそうだ」


「なんと!それは大手柄ではないか!直ぐに殿へお知らせせねば!」


 まだ何か言おうとしている兄を置いて、殿の元へと急ぐ。


「こら弥三郎!待て!まだ続きが…」



「殿、熱田の父より文が届きました。

 なにやら火急の用だと」


 兄から渡された文を殿へお渡しする。

 しばらくそれを、難しい顔で読んでいた殿は、ニヤリと笑う。


「長門、急ぎ三左を呼んで参れ」


 側に控えていた小姓頭の岩室長門守殿が、すぐに森三左衛門様を呼びに席を外す。

 持ってきた文の中に三左衛門様に関する事があったのだろうか?

 程なくして三左衛門様がやって来る。


「三左衛門、話は聞いておるか?」


「はっ、愚息より報せが参りました」


 殿は、ニヤリと楽しそうに三左衛門様を見ておられる。


「確か椎茸や澄み酒を造っておったのも、お主の嫡男だったか…中々に面白き子であるな」


「はっ、誠に困りものに御座います」


 うん?三左衛門様の御嫡男に関係があるのか?

 確か、澄み酒を造ったと評判であったのだが、本当は三左衛門様が造られたとばかり思っていた。


「幼くして商才のある者だと思うておったが、槍働きも出来るとは、流石は攻めの三左の嫡男、先の楽しみであるな」


 一頻り三左衛門様をからかわれた後、長門守殿に命じられた。


「長門!願証寺と荷ノ上へ使いを出せ!三左衛門の子が、服部左京進親子を生け捕りにした。解放の条件は城の明け渡しとする。吉兵衛(村井貞勝)と所之助(島田秀順)に命じ、熱田にも人を出させよ」



 約一月ほどして、荷ノ上城を引き渡し、織田家との不戦、子の弥右衛門尉の人質で話がついた。

 服部党は荷ノ上城を引き払い、左京進は長島願証寺へと送られ、子の弥右衛門尉は人質として清須へと送られる。

 そして今、三左衛門様の嫡男、小太郎殿が清須へと呼び出された。

 同年代の子より頭一つは大柄だが、それでもまだ初陣で首を取るようには見えないのだがな。


「此奴が、三左の子か」


「はっ」


「森三左衛門が嫡子、小太郎に御座います」


 殿は、しばらく小太郎殿をじっと見つめながら機嫌良さげに、


「此度の戦功、天晴れである。戸田庄に所領六百貫を与える。励め」


 と言うと、さっさと奥の間へと下がられた。

 六百貫だと!某よりも多くの知行を、十にも満たぬ童が!


 奥の間にて殿は同じ小姓の佐脇藤八と、機嫌良さそうに話されておられた。


「しかし、まだ元服も済ませておらぬ童に六百貫もの知行、よろしかったので?」


 藤八が某の言いたかった事を聞いてくれる。


「石橋式部大輔を討ったのだ、その治めておった地をくれてやっても、おかしくはあるまい?

 戸田は肥沃な土地故、米と酒を造らせればよい。

 あの者の得意とするところであろう?」


 成る程と、藤八は相槌を打つ。

 藤八は前田家の五男ではあるが、子のおらぬ佐脇家へ養子に入り、知行の心配がない故、呑気なものだな。

 刀の扱いにも()けてはいるし、浮野での武功もあるが…その武功と引き換えに左肘を斬られ、もはや槍働きも難しいだろうに…


 しかし、いくら三左衛門様の子とはいえ、童などに負けるなどありえぬ!

 某の方がまだまだ活躍出来るはずだ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] めんどくさいのに目をつけられたか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ