259 出番なし!
永禄十一年四月、とうとう新しい御所が完成した。
それは織田勢が、いよいよ伊勢の長野工藤氏と北畠氏の討伐に向かうという事を意味する。
俺は今年に入ってからは色々と忙しく、あまり伊勢の調略に力を入れられなかったが、そこは滝川彦右衛門改め左近将監殿が確りやってくれているだろう。
俺も真宗高田派の尭慧殿を始め幾人かに協力をお願いしてある。
よし、怪我しない程度に頑張るぞ!
「民部少輔、京の事はお主に任せる。何か揉め事があらば傳兵衛に任せる様に。傳兵衛も確りと大樹を御守りせよ」
「「はっ!」」
殿の言葉に俺と村井民部少輔殿が頷く。
どうやら俺は伊勢攻めから外された様だ。
本圀寺の変が理由かもしれないな。
あの時、京に居た者は居残り組になっている者が多い。
明智十兵衛は、伊勢攻めに参加するみたいだけどな。
「傳兵衛殿、此度の伊勢攻めに加われぬとは、残念にございましたなぁ」
嬉しそうに加藤弥三郎が話しかけてくる。
そんなに俺が伊勢攻めから外された事が嬉しいのかな?
「殿の御下命にて、致し方御座らぬ。尤も、既に年始に大功成した身なれば、此度は皆に武勲を立てる機会を御譲り致そう。それに某も、既に伊勢への仕込みを終えております故、戦は幾分かは楽になりましょう」
ムカつくから煽っておこう。
あまり下手に出て、ウチの家臣達が暴発しても困る。
俺自身は、伊勢攻めに参加出来なくても全然構わないんだが、家臣達は不満だろうしな。
どこかでガス抜きでも、させてやらないとな。
ただまあ、多少とは言え長野工藤家に対して調略もしているので、完全に手を引くという訳にもいかない。
織田の軍勢の通り道にある川尻城を守る前野将右衛門には、繋ぎとして親父の軍に参加させよう。
長野工藤家や北畠家の残党の勧誘もして欲しいからな。
悪いが他の者は待機だな。
その後、信濃から秋山伯耆守がやって来たとの連絡があったらしく、その伯耆守を歓待する為に、殿は急いで岐阜へ戻って行かれた。
何でも伯耆守は、奇妙様と武田の姫君の婚約成立の為に美濃へやって来たのだとか。
これで織田家の東側は安全地帯となったので、安心して伊勢を攻められるな。
将来的には不安しかないが…
四月下旬、とうとう織田家が中伊勢の長野工藤氏の攻略に乗り出す。
長野工藤家には滝川左近将監殿と共に、史実を参考にして色々と仕込みを済ませてあるので、その内に攻略は出来ると思う。
そろそろ分裂が起こるんじゃないかな?
念の為に、真宗高田派の尭慧に、俺からも手紙を送っておこうかな。
真宗高田派の本当の利用価値は、一向衆と敵対してからだからな。
今の内からちゃんと織田家に好印象を持ってもらわないと。
そんな頃、播磨の赤松政秀から足利義昭に援軍の要請があった。
昨年末に、龍野赤松家の赤松政秀の娘が、赤松宗家の命で小寺家に拉致されたのだが、幕府は赤松宗家と交渉して、その娘を引き取る事に成功した。
だが、龍野赤松家と赤松宗家の戦いが収まった訳ではない。
赤松宗家は、隣国の備前に勢力を張る浦上家に援軍を求め、共に龍野赤松家を攻め続けている。
龍野赤松家は同盟を組んでいる別所家と共に、赤松宗家・浦上家と戦っていたのだが、とうとう幕府へ援軍を頼んできたのだ。
そこで足利義昭が殿に播磨への派兵を命じると、殿は摂津池田家を始めとする摂津衆に播磨への出陣を命じた。
だが、俺達京の居残り組は、留守番を継続だ。
折角だから、この時間を利用して宝蔵院胤栄に槍術でも習いに行きたいなぁ。
特に防御を習いたい…もう、怪我したくないし…
よし、この機に今まで出来なかった事をやっておくか!




