257 新御所造営中
本圀寺の変も収まり、京へ上って来た殿も、三好方に荷担した摂津や和泉の国人衆や堺や尼崎の町衆への制裁など忙しく動いている中、俺も奉行人として復職し、日々の政務に励んでいる。
そんな中、新しく足利義昭の御座所を造る事となった。
新しい御所の普請は殿自らが音頭をとって、村井民部少輔(村井貞勝)殿と島田但馬守(秀満)殿が普請奉行となり、他にも佐久間右衛門大夫殿、柴田権六殿、ウチの親父の仲良しトリオ、浅井家からも三田村左衛門大夫国定、大野木土佐守秀俊、野村肥後守直隆という人達を始め、近隣10ヶ国から人を集めて急いで進められている。
うん、浅井家からの3人は、後の姉川の戦いの時に横山城を守っているはずの3人だな。
今日もいつも通り政務を行っていると、表が騒がしくなってくる。
「殿!一大事に御座います!」
小姓の瀧孫平次と、親父の家臣である近松新五左衛門が駆け込んできた。
「如何した、新五左衛門。父上に何ぞあったか?」
「はっ!殿より若君へ後詰めの要請に御座います!」
は?
「後詰めだと?相手は誰だ!」
どこから敵が攻めて来たんだ!?
「はっ、浅井方の三田村左衛門大夫を始め、大野木土佐守、野村肥後守との戦に御座います!」
は?浅井の武将と戦?
「はぁ?!浅井だと?何が原因だ!」
「佐久間家と三田村家の足軽同士の小競り合いから発展し、既に百名以上の死者が出ております!」
何やっとんじゃ、ウチの軍部トップスリーは!
揃いも揃って馬鹿なの?馬鹿なのか!?
何で止める方向に動かんのじゃ!
面子とか色々譲れない物があったのかも知れないが、死者が百人以上とか!
百人以上死者が出ているなら、今更揉み消す事も出来ないだろうし…
「先ずは殿へお知らせせねば」
気が重いが、言わない訳にもいかないし、三馬鹿を止められるのも殿しかいないだろう。
殿の宿泊先となっている妙覚寺へ、新五左衛門を連れて行き、事の顛末を報告させ、事態を収拾してもらえるよう願い出る。
「では、此度の事は、此方に非があると?」
殿は不機嫌そうな顔で尋ねられる。
「双方の言い分を聞かねば確かな事は分かりませぬが、この新五左衛門の話を聞く限り、先に右衛門大夫殿の兵が浅井方を挑発したのが原因の様に御座います」
「相違ないか?」
殿がギロッと俺の側に控えている新五左衛門を睨む。
「そ、相違御座いませぬ」
新五左衛門は怯えて縮こまりながらも答える。
「相分かった。此処は大樹に仲裁を御頼みしよう」
「はっ」
殿は、義昭に仲裁を頼んでくれるそうなので、これで一安心かな。
後は幕臣のお仕事なので、俺の仕事は此れで終了だ。
「しかし傳兵衛、お主は三左に荷担せなんだのだな。お主が右衛門大夫の身であったなら如何した?」
ん?俺が右衛門大夫殿の立場ならどうしたかって?
そんなの…
「なるべく派手に当方の足軽頭の首を刎ね、双方を威圧しつつ、仕事に戻れと促しまする。口答えあらば、更に首を刎ねまする」
騒動を起こすような奴は要らない。
「では、此度の騒ぎは右衛門大夫の不手際と申すか?」
むっ、ヤバい…俺のせいで、右衛門大夫殿が責任を負わされるのは避けねば!
「いえ、今回責任を負うは、浅井方を挑発し喧嘩を売ったにも関わらず、不様に負けた足軽共に御座います。どうせ戦うならば、勝てる算段を整えてから戦えばよいものを。負けておりますれば、後から褒めてやる事も出来ませぬ」
自分から喧嘩を売って、相手にボコボコにされる奴が悪い!
負けるなら始めから喧嘩を売るな!
勝っていれば、後でよくやったとフォロー出来るのに。
「…左様か。傳兵衛も三左の子じゃのう…」
なんか殿に呆れられた様な気がする…気のせいだとは思うが。
その後、義昭の仲介で和睦がなり、一先ず騒ぎは収まった。
今回の出来事で、織田家家臣団は俺の想像以上にヤバイ奴しかいないと思い知ったよ。
いや、織田家だけじゃないかもしれないけど。
はぁ、俺も親父達みたいに遠慮とか常識を捨てた方が、ストレスとか無くて楽なんだろうなぁ…俺には無理っぽいけど。




