250 義昭からの褒美
合流した三好義継の軍へ石成友通を引き渡し、本国寺へと戻ると足利義昭からの呼び出しが掛かる。
行きたくはないが、仕方ない。
将軍の呼び出しを拒否するような傾いたメンタルは持ち合わせていない。
面倒な事にならなければいいけど。
「森傳兵衛!此度のそちの働き、見事であった!」
義昭が機嫌良さそうに、俺を誉めてくる。
「大樹直々に御褒めの言葉を頂き、恐悦至極に御座いまする」
全く思ってないが、畏まっておくに限る。
「そう畏まる事はない。其方や其方の子飼いの兵共は、この寺が大軍で囲まれる中、攻め手の将の首を取ったばかりか、その後の桂川の戦においても将を討ち取っておる。それに、石成主税助を降伏せしめたのも、そちの働きの御陰よ。」
どっちも家臣の手柄だけど、家臣の手柄は主君の手柄か。
しかし、そう改めて言われると、今回は頑張ったな。
若狭衆がいなかったせいで、俺達が命を張る羽目になるとは…
いくら危険とは言え、注意すれば大丈夫だと思ったんだが甘かった。
「織田家の家臣として当然の事をしたまでに御座いまする。某よりも、討ち死にした津田左馬丞や安田主税之介等の事をお誉め頂ければ、奴等も泉下にて喜びましょう。それに石成主税助の事は、小笠原備前守の知らせがあってこそに御座いまする。どうか備前守殿の事、宜しく御願い致しまする」
義昭とは距離を置きたいので、俺じゃなくて、討ち死にした奴等の方を誉めてくれ。
ついでに牢人中の小笠原清秀の再就職も御願いします。
「無論、その者等には厚く報い、備前守の出仕も許そう」
話に水を差されたと思ったのか、義昭は少しぞんざいな物言いで、討ち死にした者等への手当と小笠原清秀の再就職を約束してくれる。
「そう言えば、此処へ真っ先に駆けつけたのも傳兵衛殿に御座いましたな」
場の空気を読んだのか、明智十兵衛が話題を変えて俺の一番乗りについての話を持ち出してきた。
「おお!そうであったな!それに昨年の播磨の事もある。やはり其方の働きが一番よ!やはり相応の恩賞を与えねばな!」
「左様に御座いますな」
要らん事を言うな!明智十兵衛め!
折角、義昭が興醒めしてくれたのに、振り返したじゃないか!
上野豪為も同意してるんじゃねぇよ。
「久世の地を与えようかと思うが、どうじゃ?」
お前の家臣じゃないんだから、土地なんて貰える訳ないだろうが!
そういえばお前、寺領や荘園を勝手に幕臣に知行地として与えてるって少し問題になってたぞ。
「傳兵衛殿は織田尾張守殿の家臣。大樹より、恩賞を与えられるのは筋が違いましょう。傳兵衛殿もお困りになられましょう」
細川兵部大輔殿が、困っている俺に気付いてフォローしてくれる。
「左様、尾張守殿との無用な軋轢は控えるべきに御座る。恩賞は金品にて支払われますよう」
三淵藤英も加勢してくれるが、こちらは恐らく俺の為じゃなくて、幕臣でもない奴に土地をやるなって事だろう。
「そうか…では、傳兵衛には太刀を与えよう」
えっ?太刀は普通に嬉しい。
「確か傳兵衛殿は刀に興味が御座ったな。大樹の元服の折りに、祖師野丸の献上を提案したのも傳兵衛殿であった」
摂津晴門が、俺の刀好きエピソードを言い出した。
あと、祖師野丸は献上したんじゃなくて、借りてきたんだからな。
借りパクしてんじゃねえよ。
「ほう、傳兵衛は刀に興味があるか…」
義昭が俺の刀好きを知って何やら考えているが、勘弁して欲しい。
「傳兵衛殿は、歌道や茶の湯に明るいのみならず、書や香道も学ばれておられます。特に茶の湯においては、己の領地で茶器を造らせ、茶を育てる程に傾倒しておられます」
兵部大輔殿、そのフォローは要らない…
あと、俺は茶の湯に傾倒してはいないよ?
商売とコミュニケーションの為にやってるだけだよ?
武家が商売を…とか陰口叩かれそうだから、言わないけどさ。
「傳兵衛は、茶の湯や歌も得意か」
ほら、義昭が何か要らん事を考えてるじゃん!
なるべく近寄りたくないんだよ!
今回は保身の為に、本国寺へ出向かざるを得なかったけどさ。




