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討ち死になんて勘弁な  作者: 悠夜
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249 安宅貞宗じゃないよね

 石成友通の軍勢を、北野社の兵と挟み撃ちにする形で攻撃を加える。

 俺は護衛と共に高みの見物だが。


 俺達の接近に気付いた石成軍は、既に逃げる準備に入っていたようだが、こちらの攻撃の方が早かった。

 どんどん敵兵を突き崩し、渡辺半蔵が敵将の友通の前に躍り出る。

 二人は、槍で二三回打ち合うが、槍捌きの上手さの差か、半蔵が友通の槍を弾き飛ばす。

 友通は直ぐ様逃げを打つが、逃がすかとばかりに半蔵は追いつき、再び槍を振るう。

 友通は咄嗟に刀を抜き、半蔵の槍を防ぐが、刀は真っ二つに折れる。

 友通は折れた刀を半蔵に投げつけ再び逃走、今度は友通の家臣達が割って入り、逃げ延びた。


 本来なら大物を逃がして残念だったなと思うところだが、俺は別の事で頭がいっぱいだった。

 …石成友通って、有名な刀を持ってなかったっけ?


 そうだ、安宅貞宗!

 友通が安宅冬康を討ち取って、その名が付いたという刀!

 半蔵が叩き折った刀って、安宅貞宗じゃないよね?

 いや、大丈夫!安宅貞宗には、もう一つ由来がある。

 三好笑岩が、安宅甚八郎を斬ったのが由来という説…こっちが正しいに違いない!


「新右衛門、半蔵が叩き折った主税助の刀を持ってきてくれ」


 俺は護衛の岸新右衛門に、刀の回収を命じる。


「殿、如何なされました?」


 仙石新八郎が、不審な様子の俺に気付き声を掛けてくる。


「石成主税助の刀だ。折れたとはいえ銘のある物ならば腰刀に直して、主税之介(安田国利)の子に与えようかと思ってな…」


 咄嗟に討ち死にした主税之介の名を出してごまかす。


「岩福も嘸や喜びましょう…」


 野中権之進は、俺の言葉に涙ぐむ。

 権之進すまん、折れた刀が安宅貞宗かどうか確認したかっただけだ。

 それにしても主税之介の子供の幼名は、岩福っていうのね。


 新右衛門が刀を持って来ると、急いで柄を外し(なかご)を確認する。

 他の者は、まだ戦っているが、俺の出番なんてもうないし、周りの護衛も気合が入ってるし、構わんだろう。

 え~と、何々?金吾藤貞吉…少なくとも貞宗ではないな。


「良い刀だ。新右衛門、済まぬがこの刀を腰刀に直してもらってくれ。主税之介の子に与える。残った根元の部分は、鉈か小刀にでもしておいてくれ」


 折角銘が刻んであるのに、捨てるのは勿体無い。

 金吾藤貞吉…保昌貞吉は、重要文化財の『大保昌』や、国宝の『桑山保昌』で有名な名工だ。

 このまま捨てたり、溶かして鉄に戻すより、再利用した方が良い。

 石成主税助の刀を、安田主税之介の息子に与えるのだから、『主税保昌』とでも名付けようか。



「殿!主税助の兵が逃げます!追撃を!」


 刀の事を考えていた俺は、半蔵の言葉で我に返る。

 逃げ切られるのは面倒だな。


「よし、追撃せよ!主税助を逃すな!」


 北野社の兵と共に石成軍を追い詰めようと追撃を命じる。


「殿!!!」


 追撃を命じた当にその時、南より叫びながら馬にて駆け寄ってくる者がいた。

 良く見ると、奈良の宝蔵院で修行させていた可児才蔵と加治田新助の2人だ。


「遅参申し訳御座いませぬ!!急げ新助!」


「分かっておるわ!才蔵!殿、我等急ぎ追撃に加わりまする!」


 2人はそう言うと、俺の前をすり抜けて、そのまま追撃に加わり、石成軍に突撃していく。

 おい…いやまあ、良いんだけどさぁ。



 才蔵と新助が加わったからではないが、石成軍は壊走し何処かへ逃げていった。


「殿。小笠原備前守殿よりの知らせで、石成主税助は近くの寺を占拠し、中に篭っておる様に御座います」


 小笠原清秀から続報が入るが、石成友通も逃げずに篭ってどうするつもりかね?

 篭った所でどうしようもないと思うんだが、一旦休憩でもしたかったんかね?

 これは、寺の者には悪いが、焼き討ちだな。


「清右衛門、半蔵、寺に火を…」


「御待ちを!傳兵衛殿!」


 俺が家臣に、寺に火を掛ける様に命じようとした所で待ったが掛かる。

 見ると、馬で駆けてくる見覚えのない武者が一人。

 周りの家臣が、さっと警戒体制に入る。


「某、三好左京大夫が家臣、野間左橘兵衛に御座る!左京大夫より傳兵衛殿への文を持参致した!暫し御待ちあれ!」


 三好義継からの手紙?


「左橘兵衛殿、如何なされた?」


「やれやれ、間に合ったか。傳兵衛殿、某に主税助殿と話し合いをさせていただきたい。左京大夫からの頼みで、主税助殿に降伏を勧めに参った次第に御座る」


 ん?三好義継は、石成友通を助けたいのか?

 三好義継が石成友通を助けたいのか、石成友通が三好義継に助けを求めたのかは知らんが。


「しかし、最早主税助殿の命は風前の灯。今更降伏など…」


 別にどっちでも構わないけど、素直に言う事を聞くのも何だから、一応ゴネておこうか。


「無論、主税助殿が断るならばその結果がどうなろうと口出し致しませぬし、何れにしろ左京大夫は傳兵衛殿に感謝致しましょう」


 説得に失敗したら首を取っても文句は言わないし、成功しても失敗しても三好義継は御礼をしてくれるらしい。


「…左京大夫様の顔に泥を塗る訳にも参りますまい。承知致した。左橘兵衛殿が戻られるまでは攻撃を控えましょう」


「忝ない。この恩は後に必ず返させていただく」



 左橘兵衛が石成友通の所へ向かってから暫くして、石成友通は降伏した。

 むう、少々消化不良だが仕方ないな。

 おまけで連れてきた中島四朗次郎も手柄を挙げた様だし、もうやる事もないな。

 後の事は三好義継に任せよう。

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