248 北野社松梅院
どうやら、この部隊の将は各務清右衛門の討ち取った松山新介重治という武将で、俺が討ち取ったのは中村新兵衛という松山新介の家臣らしい。
松山重治と言えば、三好家でも重臣といえる武将だったと思うが…
中村新兵衛って、そんなに名が通っている武将なのかな?
「若が鑓中村を討ち取ったと知れば、三好家も怖じ気づいて、慌てて阿波へ逃げ帰りましょうぞ!」
清右衛門は、中村新兵衛から赤い陣羽織を剥ぎ取り、朱柄の三間槍の穂先に引っ掛けて頭上に翳し、大声で俺が鑓中村を討ち取ったと喧伝する。
中村新兵衛とやらを詳しくは知らない俺は、清右衛門の燥ぎ様が相応のものかどうかも分からないので、ひたすら恥ずかしいだけだ。
もう、俺達の勝ちは動かないだろうし、早く切り上げて帰ろう。
「清右衛門!半蔵!最早勝敗は決した故、後の事は幕臣と摂津衆に任せ、我等は本国寺へ戻るぞ。残党が大樹を狙わぬとは限らぬからな」
まだ戦いたそうな家臣共を引っ張り、義昭の護衛に戻る。
本国寺に戻ると、俺を見つけたらしい茶屋の中島四郎次郎が走り寄ってくる。
「傳兵衛様!」
「四郎次郎か。その様に慌てて、如何した?」
「先程、小笠原備前守様より、石成主税助の兵が北野社松梅院に現れ、北野社の者達と戦になったとの知らせを受けまして、御知らせに参った次第に御座います」
石成主税助…三好三人衆の中でも一人だけ姓が違ってネタにされる事で有名な石成友通か。
桂川を南へ向かい摂津へ逃げれば良いのに、何で友通は正反対の本国寺の更に北にある北野社へ逃げたんだろう?
桂川を渡れなかったにしても、何で北?
まあ史実の石成友通は、この戦いで討ち死にしてはいないから、史実の世界でも北野社へ逃げていたのだとしたら、この世界でも生き残る事は出来るんだろうが…理由は知らん。
小笠原清秀が四郎次郎を本国寺へ使いに出したのは、自分は幕府の為に頑張っているとアピールするつもりなのだろう。
まだニートだし…
何で清秀が北野社にいるかというと、嫁さんが北野社松梅院の院主の娘だからだな。
「清右衛門!半蔵!まだ行けるか?」
「無論に御座います!この程度で根を上げる様な柔な者は当家には居りませぬ!」
清右衛門が勢い込んで返事を返してくる。
「左様!皆もまだまだ暴れ足りませぬ!」
半蔵も同様の返答返してくる。
正直、行きたくねぇ~。
石成友通と北野社が、お互いの戦力を削りあってくれるんだから、救援に向かうポーズだけ見せておいて、後で間に合いませんでしたと言えば十分じゃね?
皆のやる気に水を差すのも何だから、行くけどさ…
ふと、背後から視線を感じて振り返ると、四郎次郎がキラキラした目で、仲間になりたそうに、こちらを見ている。
「四郎次郎、其方は如何する?暴れたいのならば、連れていってやるぞ?」
「是非とも御願い致しまする!!」
四郎次郎に参戦の意思を確認すると、物凄い勢いで頼まれた。
「源八郎!四郎次郎に合う鎧と槍を!」
小姓の森源八郎に、四郎次郎の鎧を準備させて時間を稼ぐ。
ちょっとでも遅くなってくれた方が、敵の数も減って楽だからな。
四郎次郎の準備が整ってから、北野社へ向けて出発する。
北野社に到着すると、まさに北野社と石成軍との戦の真っ最中。
北野社は所々焼け、両軍共に良い具合に消耗している。
「若!丁度良い所に出会しましたな!」
清右衛門の生き生きとした声に、皆も笑みを浮かべる。
「よし、此度は儂は何もせぬ故、お主等で手柄を立てるが良い」
俺はさっきの戦いで目立ったから、もういいだろ。
確かに石成友通は超大物だから惜しいけど、近づくと組つかれて噛みつかれそうなので、戦うのは家臣に任せて、俺は安全な所にいよう。
それに石成友通の首を取るチャンスともなれば、家臣共のヤル気は更に上がるだろうし。
「若!主税助の首級は、若が取られた方が…」
「良い。儂は此度の戦で既に十分な手柄を上げた故、主税助の首級はお主等への褒美よ」
あくまで俺に手柄を立てさせようとする清右衛門の言葉を遮り、家臣に手柄を譲ると宣言する。
「宜しいので?」
「構わぬ。家臣に手柄を立てさせるのも主の役目だ。それに儂に手柄を立てさせるばかりでは、皆も面白くなかろう?」
家臣のストレス解消の機会は、存分に与えてやらないとな。
恐らく、史実よりも低い給料で扱き使われているであろう有能家臣達への罪滅ぼしも兼ねて。




