241 若狭衆は?
本国寺防衛の大将は、野村越中守定常という幕臣に決まった。
これは、投票で決まったらしい。
勿論、総大将は幕臣の中から選ばれるので、俺達織田家の人間には関係ない話だが。
対して攻める三好軍は、三好三人衆(三好長逸、三好宗渭、岩成友通)、三好康長を始めとする諸将や、三好家に付いた摂津、和泉、河内の国人衆達、そして総大将に足利義栄。
足利義栄…そういえば、まだ生きてたな。
本来なら義昭ではなく義栄こそが、第十四代室町幕府将軍となるはずだったのにな…
翌朝、京に現れた三好家の兵が東福寺辺りに陣を敷き、将軍塚にある砦や南禅寺を焼き払って、本国寺を囲み始める。
「さて、これより如何にすべきか、皆の意見を聞きたい。このまま籠城するという事でよろしいな?」
三淵大和守藤英が、籠城でよいかと聞いてくるが、他に何かあるのか?
寺より出ても、数の差で踏み潰されるだけだし、他の砦などは捨てて、援軍が来るまで、ひたすら籠る事しか出来ないと思うんだが。
それに反対する者は流石におらず、皆が頷く。
…えっ?それで終わり?
何も話す事ないじゃん。
「大和守殿、一つよろしいか?」
このまま終わっても良いのだが、折角だから大和守殿に意見を言ってみようか。
「森傳兵衛殿で御座ったな。何か御有りか?」
「本国寺の僧に、寺を壊さぬよう、三好家と話し合わせてみては如何か?」
「僧に三好家と話をさせよと?」
「左様、三好家は熱心な法華教徒に御座る。同じ法華宗の寺である本国寺の僧の話であれば、一先ず話は聞きましょう」
坊主も、寺を壊されたくないから、必死で説得してくれるだろう。
三好家も、法華宗とはズブズブの関係だし、門派が違うとはいえ、京で力を持つ本国寺の話なら、聞くだけは聞いてくれるだろう。
まあ、だからといって、受け入れはしないだろうが。
「果たして三好家が受け入れようか?」
俺の意見に、大和守殿は否定的な様だ。
その通りだしな。
「受け入れはしますまい。しかし、此方は援軍を待つ身なれば、例え半刻であろうと、時を稼げるならば、やってみて損は御座いませぬ」
三好家が僧の話を聞いている時間が長ければ長い程、攻撃開始時間が遅くなるのだから、やるだけやってみればいい。
それに、後ろめたさから、攻撃の手が緩むかもしれないし。
「左様ですな。多少は三好勢の攻撃に手心が加わるやも知れませぬ」
俺と同じ事を思ったのか、光秀も同意してくる。
それを切っ掛けにポツポツと、やらせてみれば?という意見が出始める。
「ふむ、そう言われるのであれば…」
幕臣に同意する者が現れたからか、話が通る。
う~ん、面倒臭いな。
翌五日、今まで周辺の砦などを焼き討ちしていた三好勢が、本格的に本国寺を囲み始める。
昨日決めた作戦通りに本国寺の僧が三好勢との交渉に向かう。
その作戦は見事予想通りに決裂したのだが、一刻以上の時間を稼ぐ事に成功する。
上出来、上出来、よく頑張ったな。
こちらの予定通りに時間稼ぎに成功し、敵の攻撃開始を遅らせる事が(たぶん)出来た。
未の刻も過ぎた頃、漸く本国寺が完全に包囲され、三好勢の先陣が寺内への突入を試みる。
三好方の先陣は、史実通りに薬師寺九郎左衛門貞春とその他牢人衆。
本来この牢人衆に参加するはずの斎藤龍興や長井道利は、既に美濃で討ち取られているので、俺が知らない牢人達ばかりだ。
その薬師寺貞春の先陣に対する幕府方の守備軍は、津田左馬丞殿率いる織田家の兵達…
あれ?史実は違ったよな?
史実は確か、若狭衆の山県源内と宇野弥七が率いていたような…
あっ、義昭上洛時には国主の武田義統が死ぬ間際だったので若狭勢は出兵しなかったし、その後は朝倉家が若狭に攻め込んだせいで、ここ本国寺に若狭衆は居なかったわ…
朝倉義景め!本当に要らん事しかせん!
織田家が若狭衆の代わりに薬師寺貞春と戦うのね…
俺もだよね…
いやだなぁ…
この薬師寺貞春との戦で、若狭衆の山県源内と宇野弥七は、討ち死にしてるんだよなぁ…




