240 本国寺へ
三日の夜半、兵を引き連れ本国寺へと入る。
まだ、三好軍は到着していないし、一番乗りの様だな。
「おお!傳兵衛殿、よくぞ参られた!ささ、此方へ」
寺に到着すると、早速織田左近入道殿に呼ばれる。
殿が岐阜へ戻ったとは言え、織田の兵が全て美濃へ戻った訳ではない。
この左近入道殿の他にも、津田左馬丞(後の津田盛月)といった将軍警護の者達や、畿内の治安維持で残っている者達が残っている。
左近入道殿や左馬丞は、一応…織田の一族だけど…気にする程の事はないだろう。
「既に岐阜の殿や近江衆には、援軍を送るよう知らせを送っております。少なくとも二日も耐えれば援軍が参りましょう」
「流石は傳兵衛殿だ!聞いたな皆の者!二日…いや、三日の間、耐えれば良い!」
話を聞いた左近入道殿が、周りを鼓舞している。
いや、三好軍が攻めてくると知らせがあった時点で、本国寺からも援軍要請は出しているだろう。
そんなに俺を持ち上げて、士気を鼓舞する必要はないんじゃない?
今は、正月三日の夜中零時前、もうすぐ四日になろうかという頃だ。
三好軍が京にやって来て、周辺の砦や寺を焼き払うのが四日。
本国寺を包囲するのが五日。
そして、摂津からの援軍が来るのが六日のはず。
まあ、史実通りなら勝てる戦のはずだが…
義昭、勝手に逃げ出したりしてくれないかなぁ…
義昭自身が勝手に逃げ出してくれれば、俺のせいじゃないしな。
「では、某は大樹にこの事を知らせて参る」
左近入道殿は、義昭に援軍の事を知らせる為に去っていく。
さて、どうしたものか…
「傳兵衛殿では御座らぬか」
俺を呼ぶ声がして、そちらを見ると明智十兵衛が駆け寄ってくる。
そりゃ居るよね、明智十兵衛。
「おお、十兵衛殿」
「元服以来、幾多の戦を経ても負け知らずであられる、矢切の傳兵衛殿が居られるとは、なんとも心強い!あの弓の名手と名高い小笠原信濃守が射た矢を、槍で切り落とした腕前、頼りにしておりますぞ!」
俺が十兵衛に挨拶を返すと、十兵衛は周りに聞こえる様な大きな声で、変な美辞麗句を並べたてる。
なんだ?矢切の傳兵衛って…
今まで誰にも、そんな渾名で呼ばれた事なんかないぞ?
多分、周りの士気を上げているのだろうが、俺にそんな厨二病っぽい渾名を付けないでもらえないか…
それに、負け戦がないのは確かだが、勝てる戦しかしていないだけで、俺の指揮能力なんか、たかが知れてると思うぞ?
上洛した時にあった吹田の戦いなんて、無様だったからなぁ…
「いやいや、十兵衛殿の鉄砲の腕前は、百発百中だとか。朝倉左衛門督が驚嘆したという腕前、頼りにしております。某も十丁ばかり持参しております故、お役立て下され」
お前も道連れにしてやる…
でも、これで光秀の名声も上がってしまうんじゃない?
しまったな、スルーしておけば良かったかもしれん。
本人を見ると満更でもなさそうだし…
まあ、いいや。
俺も光秀と一緒に鉄砲を撃ちまくっていれば勝てるだろう。
「十兵衛殿、大樹には万が一の為、寺より出ていただいた方が良かろうかと思うが…」
光秀に義昭を逃がさないのかと聞く。
「大樹は、武家の棟梁として、京より離れる訳にはいかぬ、と」
「成る程、流石は武家の棟梁。その御覚悟に感服致しました。この傳兵衛も微力を尽くしましょう」
いや、どうせ城が破られるとなったら、俺等の事は放っておいて、さっさと降伏するんだろ?
でも、 逃げないなら仕方ない。
殿の面目を潰さない程度に、微力を尽くすとするか。
本当に微力だけな。
「赤座七郎右衛門殿、助六郎殿が高槻より戻られました!」
光秀と別れて暫くすると、摂津方面へ出ていた織田家家臣、赤座七郎右衛門永兼を始め、幾人かが戻ってくる。
すまんな、一番乗りは俺がもらってしまったよ。
各地に散っていた織田家の家臣達や幕臣達も、少しは戻って来て戦力は増えたが、確か兵数は三好軍が1万程で、こちらは2千程だったかな?
…まあ、何とかなるか。




