239 三が日も終わり・・・
明けましておめでとう御座います。
年が明けて永禄十一年正月。
山科西野にある郷士の進藤家の屋敷でのんびり過ごす。
他の織田家の家臣が年賀の為に国元へ帰る中、俺は怪我の療養の為に京に残留する事になってしまった。
うちの家臣や兵も大部分は国元へ返したが、まだ八十人程残っているので、近くの西岩屋大明神の宮寺などに入れる。
俺が貧乏くじを引いてしまって済まないと思う。
三が日も終わろうとしていた時、三雲三郎左衛門が飛び込んでくる。
「殿!一大事に御座いまする!」
「如何した、三郎左衛門」
「三好の軍勢が京へ押し寄せて参ります!」
へ?正月に三好家が攻めてきた?
…あ!本圀寺の変か!!
一年ずれてるから、すっかり忘れてたわ!
やっべー、どうしょうか…
流石に逃げるという選択肢はないよな。
史実の通りならば、恐らく足利義昭は無事に済むだろうが(別に死んでくれても織田家的には無しでも、俺的には有りなのだが)、近くにいるのに救援に向かわず逃亡すれば、廃嫡間違いなしの上、最悪死罪もあり得るよな。
なので、救援に向かうのは決定事項なのだが、このまま少数で突撃しても無駄死にするだけなのは明らかだ。
「安芸守!宇助!上野介!急ぎ近江衆へ援軍を頼みに行け!」
長束安芸守、渋谷宇助、大平上野介に近江へ援軍を呼びに向かわせる。
「源八郎!与吉!半蔵と清右衛門に兵を纏めさせ待機させろ!それと右京進と弥八郎を直ぐに連れて参れ!」
小姓の森源八郎と藤堂与吉に、近くの宮寺で森家の兵を纏めている渡辺半蔵と各務清右衛門に出陣の用意をさせ、平野右京進と本多弥八郎を呼んで来させる。
「三郎左衛門!引き続き三好の動きと本圀寺の大樹様の様子を探れ!」
三郎左衛門には敵や義昭の更なる情報収集を命じた。
「彦市!お主は儂と共に四手井城へだ!兵を借りるぞ」
俺は多羅尾彦市と共に、松永久秀配下の四手井殿に兵を借りに行く。
本人は、まだ大和だろうか?
「孫平次!お主は仙介に事情を話し、助力を乞え!後から来た者に事情を話し待機させよ!」
残る小姓の瀧孫平次は、この辺りの郷士である進藤仙介に助力を乞う役目と、後から来る奴等への説明役に残していく。
早速彦市を連れて四手井城へ向かうが、やはり城主の左衛門尉殿は、大和より戻っていなかった。
流石に四手井家の家臣を勝手に借り出す事は出来ないので、金銭で雇える兵を集めてもらう。
兵を率いて進藤邸へ戻ると、弥八郎と右京進、それに新情報を掴んだのか三郎左衛門が待っていた。
「三郎左衛門、戦の様子は如何であった?」
「はっ、敵方総数およそ一万。総大将に阿州様。釣竿斎宗渭、三好長逸、岩成友通、三好咲岩等が兵を率いております。対して本国寺(まだ本圀寺という名称ではない)の兵はおよそ千二百。幕臣の方々を始め、織田家からは織田左近将監様、津田左馬丞様が篭っておられます」
まあ、幕臣の中に明智光秀も入っているんだろうな。
しかし、史実では二千いたらしい兵が大分減っているのは、若狭とか越前の奴等がいないからだろうか?
確か若狭衆の何とかさんが活躍したという話があった様な気がしたが、代わりを務めてくれる奴はいるんだろうか?
「後は、高槻より赤座七郎右衛門殿が間もなく到着するかと思われます」
赤座七郎右衛門永兼がやってくるのは変更なしか。
「どう思う、弥八郎」
ここまでの情報でどう動くべきか、本多弥八郎に尋ねる。
さっさと合流するべきか、敵が来てから奇襲を掛けるか。
「奇襲を掛けようにも、此方は寡兵に過ぎまするな。幕臣等の援護も期待出来ますまい。それに直に近江より援軍も駆けつけましょう。そうなれば、殿もあまり大樹様の目に留まることもありますまい。やはり一番に本国寺へと駆けつけた方が、大樹様の覚えは良いかと思われます」
少数で奇襲を仕掛けても、数の差で踏み潰されるのがオチだよな。
俺は三国志の武将じゃないし…
ならば、一番に援軍に駆けつけて、感謝された方がいいかもな。
援軍が来るまで、他の奴等を盾にして、適当に戦っていれば怒られないだろう。
「よし、直ちに本国寺へ向かう。鉄砲と玉薬を忘れるな。右京進は此処へ残り、岐阜の殿との繋ぎをせよ」
堺で買った鉄砲の出番がやって来たな。
森家家臣80名に、掻き集めた兵士40名の計120名。
何とかなるか?




