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討ち死になんて勘弁な  作者: 悠夜
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237 傳兵衛の今後

森可成視点です。

 美濃国岐阜城 織田家家臣 森伊豆守可成


 岐阜の殿より呼び出しを受けて、殿の屋敷へ向かう。

 屋敷に着くと、取次の坂井久蔵に出迎えられる。


「伊豆守様、殿が御待ちに御座います」


「承知した」


 ふん、右近めの子なのは気に食わぬが、殿の命でとは言え娘婿となるのだ、我慢せねばなるまい。

 右近が頭を下げてまで頼んできたのだ、許してやらねばなるまい。

 子の久蔵にまで敵愾心を向けるのは御門違いだと、傳兵衛からもきつく釘を刺されておるしな。


 久蔵の案内で、殿の所へ向かう。


「殿、森伊豆守様を御連れ致しました」


「伊豆守か、入れ」


 久蔵の声に、部屋の中から殿の返事が返る。

 襖を開けて中に入ると、殿の前に織田掃部助(織田忠寛)がいた。


「殿、出直しましょうか?」


「構わぬ。掃部、続きを話せ」


 儂が聞いても問題ない話か。


「はっ。武田家は、奇妙様と松姫様の婚姻を了承するとの事に御座います」


「そうか…掃部は、引き続き話を進めよ」


「はっ」


 奇妙様と武田の姫との婚姻の話か。


「儂は伊豆守と話がある、下がれ」


 殿の命で掃部助は部屋を出ていく。

 さて、儂の番か。


「三左、聞いての通りだ」


 殿は他人の居らぬ所では儂の事を、伊豆守ではなく三左と以前からの名で呼ばれる。

 儂も正直、その方が気が楽だ。

 殿に伊豆守と呼ばれても慣れぬしな。


「奇妙様の御婚約、誠に御目出当御座いまする」


「うむ、四郎殿に嫁いだ娘も無事、男児を生んだようで、益々武田家との縁が深まった」


 殿は上機嫌で、武田との現状を話される。


「慶事が続きますな」


 武田家との同盟が強固になれば、東を気にせずとも済む。


「ところで三左、お主を呼んだのは、傳兵衛の事だ」


「傳兵衛に御座いますか?」


 はて?傳兵衛が何か仕出かしたか?


「うむ、実はな、儂は傳兵衛には(いず)れ新たに家を興させ、何処(いずこ)かの地を任せようかと思うておる」


「なんと!傳兵衛は当家の嫡男に御座いますぞ!」


 嫡男の傳兵衛に別家を興させるとは?!


「傳兵衛にはその才覚がある。幸いお主には子が多い。森の跡目は下の者に継がせれば良かろう。それに傳兵衛が別家を興して領地を広げた方が、お主の家としても都合が良かろう」


 むっ、確かに子等に領地を分けるとなれば、少しでも広いに越した事はない。

 傳兵衛ならば、己の力のみで新たに領地を広げる事など難しい事ではなかろう。


「しかし…」


 傳兵衛は此迄(これまで)、森家の為に、森家を継ぐ為に、武勲のみならず様々な事で貢献してきたのだ。

 それを何の瑕疵(かし)もないのに、新たに家を興すとはいえ、森家の嫡男から外すとは。


 暫く思い悩むが、殿が念を押してくる。


「安心せい三左。傳兵衛には、それなりの家の娘を娶らせ、然るべき所領を与える。良いな?」


「…はっ!」


 殿がもう御決めになられたのであれば仕方あるまい。

 それに、傳兵衛ならば上手くやろう。

 殿も悪い様には、なされぬだろう。

 今思えば傳兵衛も、それを見越して於勝の指導に力を入れていたのやも知れぬな。


「それにまだ先の話よ。先ずは伊勢の北畠家を降す事が先決よ」


「はっ」


 まだ、先の話だ。

 北畠家を降した後には、周りの状況が変わっておるやもしれぬしな。


「ところで、傳兵衛の室の話だが、何ぞ望みはあるか?」


「某は特に御座いませぬが…傳兵衛は公家は勘弁と申しておりましたな」


「ほう、公家は駄目か。しかし、あの者は公家とも親しくしておった筈だが?」


 殿は不思議そうに頭を傾げられる。


「以前より、公家にこれ以上面倒事を押し付けられるのは勘弁願いたい、と愚痴を溢しておりましたからな。上洛してより思いは強くなっておる様で、某に寄越す文には何時も愚痴が書かれておりまする」


「ほう、あの傳兵衛にも苦手なものがあるか。確かに今思えば、秋に上洛を命じた時に、一瞬嫌そうな顔を浮かべた様な気がするな」


 殿は傳兵衛の話に、愉快そうに頷かれる。


「隠してはおりますが、あれは公家を忌避しております故、隙あらば他の者に役目を押し付けようと画策致しまする。公家嫌いというよりは苦手といったところですが」


「ふむ、公家からも婚姻の話はあるのだが、断るべきか」


 殿は傳兵衛の公家嫌いを聞いて思案顔だ。

 しかし、傳兵衛に公家との婚姻話があるのか。

 傳兵衛は嫌がるだろうな。


「殿が命じれば、嫌とは言わぬでしょうが、内心嫌がりましょうな。出来るなら武家の方が喜びましょう」


「武家の方が無難か」


 殿も傳兵衛と公家の娘との婚姻は考え直してくれた様だな。

 傳兵衛も喜ぼう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 出世譚というよりも、信長おじさんニッコリのアットホームな内部昇格という感じ 傳兵衛君の非凡(良い意味でも悪い意味でも)な所は、カンニング未来知識以上に 普通のお子様に有りがちな愚行の類を…
[気になる点] 教えていただきありがとうございます。 もう一点教えていただけると幸いです。 傳兵衛の家臣達にとってのデメリットを。 [一言] 傳兵衛のデメリットは可成らに押し付けていた面倒事を自分で…
[気になる点] 傳兵衛を独立させることで得られる信長のメリットの説明があったほうがいいかなと メリットというほどの物ではなく直接恩賞与えるようにしたかった程度の理由かも知れませんがw
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