236 退避先は
家臣達と相談して、親父から借り受けていた兵は、美濃へ帰すことにする。
俺を助ける為に京へ残ってくれていた親父の家臣の内の1人、青木加賀右衛門が兵を率いて美濃へ戻ってくれる事となった。
もう1人の各務清右衛門は、京に残って俺の手伝いをするそうだが、手伝う様な事は何も無いよ?
足が治るまで、屋敷でじっとしているから。
ウチの家臣達は残るが、それも十二月になったら他の奉行人達と共に領地へと帰らせる。
年末年始は、俺の代わりに方々へ出向いてもらわねばならないし。
京に残る家臣は、小姓の森源八郎と瀧孫平次、京で政務を担当している建部伝内と平野右京進、参謀の本多弥八郎、護衛の奥田三右衛門と木村又蔵、兵を率いている渡辺半蔵とその弟の新左衛門、北伊勢攻め以降に召し抱えた新参者の一部(一柳市介、今枝八郎左衛門、安国主税之助、大平上野介等)などだ。
あと、美濃で修行中の岸新右衛門、仙石新八郎、野中権之進の3人を呼び戻す事を認めさせられた。
小者等も含めると、総勢80人にギリギリ届かないくらい…多くない?
昔、尾張統一前の殿が上洛した時は、お供30人だったと思うから、それくらいでいいんじゃないの?と話したら、加賀右衛門や清右衛門から猛反発を喰らった。
なんでも、元服してからの俺は、厄介事を引き寄せているそうで心配らしい。
失礼な奴等だな!
たかだか年末年始を京で過ごしたくらいで、何が起きるっていうんだよ!
結構な出費だよ!
兵を領地に返して休養に入るが、一つ問題が起こった。
俺はそのまま妙覚寺に留まっているのだが、休養中にも関わらず客がやってくるのだ。
ヤバイ。
今はまだマシだが、年末になって他の奉行連中が美濃へ戻れば、俺の所へ集中してやって来るんじゃないか?
どこかに逃げなきゃ!
「それは大変。どうじゃ?儂に任せてみぬか?良き隠れ家を用意して進ぜよう」
俺が困っているという噂を何処からか聞き付けたのか、山科言継がやって来て、良い場所を紹介してくれると言う。
怪しい…
「有り難い事に御座いますが…」
また、厄介事じゃないだろうな。
「実は、少々困っておりましてな」
ほら来た!やっぱり!
これだから公家の相手なんかしたくないんだよなぁ。
俺の方から縁を結びに行っているから、自業自得なんだが…
「困った事に御座いますか…」
「左様。当家の家領が山科の地にありましてな。その山科の西山という村は、昔から三宝院に狙われておってのう。それ故、幕府より、西山は当家の家領だと御墨付きを貰っておるのじゃが…今度は、その幕府による横領に遭う始末。約束と違いまする。傳兵衛殿、どうにかなりませぬかな?」
俺に頼むなや!どうにもならんわ!
俺が義昭に物言える立場じゃないのは、分かってるだろが!
「尾張守に申し伝える事は出来ますが、大樹様がそれを御聞き入れになられるかは…」
確かに山科家の家領の安堵は、殿も義昭も了承している筈だが、幕府はそれを無視して横領しているからなぁ。
人の土地を勝手に幕臣の知行に充てて、織田家の言う事なんか聞いてくれないし。
そういう事してるから、皆に嫌われて京から追放されるんやぞ、義昭…
「やはり、難しいかのう…はて、困ったのう。このままでは正月の祝いも買えぬ。どうしたものか…」
そっちが本題かい!
山科言継は、チラッ、チラッと俺の方を窺いながら、わざとらしく悲しそうな顔をする。
「分かり申した。当家より多少の援助はさせて頂きましょう」
「おお!流石は傳兵衛殿じゃ。有り難い!」
言継は、さも有り難そうにしているが、最初から俺に出させる積もりだっただろうが!
回りくどいんじゃ!
「但し、この事は某と内蔵頭様の二人だけの話に御座る。もし、他の者に話が漏れた場合には、この御話は無かった事にさせて頂く」
他の公家共に集られるのは勘弁だ。
「おお、勿論じゃ。傳兵衛殿は話が早くて助かるわい。西岩屋大明神の宮寺に真言宗の寺があってな。今、その寺の住職に話をつけ手配をさせておる故、そこを宿とすれば良かろうて。側を醍醐道が通っておって、京へ向かうのも楽じゃぞ」
西岩屋大明神…どこ?
「伏見稲荷の反対側じゃな」
稲荷山の反対側…それ、山科の西山村じゃね?




