231 小寺美濃守
「傳兵衛殿!御無事か?」
戦いが終わると紀伊守が、俺の会った事の無い知らない男を伴ってやって来た。
「問題御座いませぬ。今、被害を調べさせておりまする」
と、紀伊守に答えて、もう一人の人物を見つめる。
「おお、此方は小寺家の美濃守殿だ。賊討伐の途上、騒ぎを聞きつけ、援軍に駆けつけて下された」
「小寺美濃守に御座る。ここを襲った賊は配下の者に追わせております故、御安心を」
小寺美濃守…う~ん、恐らく黒田職隆の事かな?
黒田官兵衛の父親の…
史実通りならば、今年官兵衛に家督を譲って隠居したはずだが、賊退治に駆り出されたのか?
「援軍忝ない。助かり申した」
「主命で賊退治の為、領内を巡っておりました所、銃声を聞きつけ駆けつけた次第。御無事で何よりに御座る」
たまたま近くに巡回に来ていたとは…本当かよ…
「それにしても美濃守殿が兵を率いて賊退治とは…官兵衛殿の差配で?」
この時期なら職隆は、息子の官兵衛に家督を譲っていて隠居しているはず。
その隠居しているはずの職隆が、何故兵を率いてこんな所にいるのだろう?
本来、兵を率いるべき立場にあるはずの官兵衛は、一体今何処で何をしているのか?
それとも歴史がずれて、まだ職隆は隠居していないのだろうか?
「京より御使者がお越しになられるとの事でしたからな。隠居した某も賊退治に駆り出されましてな。此度の事は、我等の力不足。誠に申し訳御座らぬ」
まあ、結果的に俺達は賊に襲われてしまっているが、任務は果たせそうだしな。
上野豪為も、職隆が来なければ自分の命も危うかったと思っているのか、文句も言わず謝罪を受け入れている。
「ところで、傳兵衛殿は某の愚息の事を御存知なので?」
職隆は、俺の口から官兵衛の名が出たのが気になるのか、尋ねてくる。
「無論に御座る。聡明と噂の官兵衛殿には、是非とも御会いして、教えを乞いたく思っておったのですが、残念な事に御着には居られぬ様で」
俺が官兵衛を評価している事を、職隆にアピールする。
官兵衛を家臣に欲しいところだけど、流石に他家の家老を引き抜く事なんて出来ないし。
せめて官兵衛とは、仲良くなっておきたいな。
官兵衛が藤吉郎の家臣になる事は阻止したいが…
こればかりは殿のお考え次第だからなぁ。
史実通りに毛利家と敵対すれば、藤吉郎が姫路に派遣されるかも知れないし。
職隆に官兵衛の事を聞き出そうとするが、警戒されているのか、上手くはぐらかされている感がある。
色々聞き出しておきたかったのだが、時間切れかな。
そろそろ東の別所家側からの援軍も到着するしな。
「では、我等はこれにて。再び賊の討伐に向かいます。賊の遺体や捕らえた者は、此方で引き取らせて頂きましょう」
小寺職隆は、別所家側の援軍が到着する前に、ここを離れたい様だ。
この辺りの国人衆は、姻戚関係があるだろうに、顔を合わせたくないのだろうか?
「賊を追うならば、別所家の者に引き渡した方が宜しいのでは?」
急いで賊を追うならば、捕らえた者など放って置いて、直ぐに追いかけた方が良いのでは?
「捕らえた者共に、賊の拠点を吐かせたいのです。それに、賊退治は我等の主命ゆえ」
賊退治は自分達の仕事だから、他家には渡せないとの主張かな?
上野豪為の方を見ると、頷かれる。
賊なんか、とっとと引き渡して、安全な所へ向かおうって事だな。
「承知致した。後の事は美濃守殿にお任せ致す」
「有難い。後の事は、我等にお任せ下され」
上野豪為が認めたなら仕方がない。
捕虜に逃げられて、襲いかかられても大変だし。
俺が捕らえた2人を含め、捕虜共を小寺職隆に引き渡すと、職隆は直ぐに賊を追おうと兵に指示を出し始める。
もう少し話をして、官兵衛の事などを聞き出しておきたかったが、仕方ないな。
「御助力忝ない。官兵衛殿にも宜しく御伝え下され。叶うならば、一度じっくりと話したいものだと」
「…承知致した。官兵衛に伝えましょう」
官兵衛へのアピールをしておいて、職隆と別れる。
なんか微妙な顔をされたけど、まあいいか。




