230 罅が入ったかな?
「紀伊守殿!待たれよ!」
何とか紀伊守(上野豪為)等が橋を渡りきる前に追い付けたので、大声で制止をかける。
「で、傳兵衛殿、如何された?」
必死の形相で追ってきた俺達に驚き、紀伊守が声を掛けてくる。
しかし声を掛けるのが遅く、既に橋を渡っていた者達が、橋の西側で待ち伏せしていた敵に矢で襲われ、先導の為に馬に乗り先頭を走っていた糟屋朝正が落馬する。
「市介(一柳直末)!所右衛門(青木重通)!矢を防げ!新兵衛(飫富景友)は玄蕃頭殿をお守り致せ!」
市介と所右衛門が、橋の前で矢を警戒している間に、新兵衛が糟屋朝正を安全な所へ引きずっていく。
紀伊守等が呆然としてる中、俺も敵に向かって矢を放ち応戦する。
俺の放った矢が運良く敵兵に当たると、敵は槍を取って突撃してくる。
その頃には幕臣達も気を持ち直し、槍を取って迎撃の構えを見せる。
「守りは紀伊守殿等に任せて、強者から叩く!行くぞ!」
「傳兵衛殿!」
俺が、家臣と共に賊目掛けて襲いかかろうとした所を、糟屋朝正に呼び止められる。
矢に射られて落馬したが、大した怪我は無かった様だな。
「玄蕃頭殿、御無事か?」
「突然、矢が飛んできた為に無様を見せたが、問題御座らぬ。それより、当家の者に近くの城へ援軍を頼みに行かせる故、共に敵を引き付けて頂きたい」
伝令が敵に殺られない様にすればいいんだな。
「承知した!皆も聞いたな!玄蕃頭殿と共に敵の注意を引く!行くぞ!」
取り敢えず、伝令への敵の攻撃を防ぐ為、森家と糟屋家で、敵に向かい突撃する。
俺は、敵の指揮官っぽい奴に当たりをつけて接敵し、そのガタイが良くて強そうな武将に向かって槍を振るう。
しかし、間一髪といった所で、敵に避けられてしまった。
「野盗にしては良い動きだ。どうだ?野盗など辞めて俺の家臣にならぬか?」
明らかに野盗の動きではない男に声を掛けるが、男はそれに答えず距離を取り、俺と対峙する。
負けはしないとは思うが中々に面倒臭い。
というのも、対峙してる男の他にもう一人、若武者が牽制してくるからだ。
対峙している敵に止めを刺そうとするのを邪魔したり、後ろに回り込もうとしたり、突破して紀伊守を狙いに向かったりしようとするので無視も出来ない。
こういう時は、パターンに嵌めて…
もう何度目になるか、打ち合っている男の槍を押し返し、止めを刺そうとする。
これまた同じ様に、若武者が背後に回り込もうとする。
もう、お互い同じ様な攻防に飽きてきただろう。
背後に回り込もうとしている若武者に向かって素早く脇差しを投げつける。
その脇差しは、見事に男の太腿に突き刺さる。
「太郎兵衛!」
対峙している男が叫ぶ。
脇差しが突き刺さった男は、太郎兵衛という名らしい。
これで太郎兵衛とやらは動けまい。
やっと一対一だな。
お互いに隙を探りながら対峙する。
その時、ウォーっと東より大勢の叫び声が聞こえる。
「傳兵衛殿!援軍に御座る!」
紀伊守の声が上がる。
どうやら、別所家の援軍がやって来た様だ。
思ったより早いな。
援軍到着にはもっと時間がかかるかと思っていたが、余程急いで来てくれたのだろうか?
だが、俺はその紀伊守の声に反応して隙を作ってしまう。
その隙を突いて敵が突っ込んできて槍を振るってくる。
俺は、その槍を避けようとするが、砂利に左足を取られて体勢を崩してしまう。
何とか敵の槍から逃れようとするが、槍は俺の左脛をぶっ叩く。
幸い穂先は当たらなかったが柄の部分で殴られてしまい、しかも脛なので声が出ないくらい痛い。
流石に痛さで倒れ込むが、倒れ込みながらも苦し紛れに槍を振るうとラッキーな事に、こちらも槍の柄だが、相手の頭に当たった。
勿論、踏ん張りが効いていない状態での一撃なので力は乗っていないが、それでも相手は倒れ込んだ。
止めを刺そうと立ち上がるが、「父上!」という叫びと共に、脇差しが飛んで来る。
さっき俺が脇差しを命中させた太郎兵衛とかいう男が投げ返したようだ。
全然俺に届いていないけど…
どうやら二人は親子の様だ…俺には関係ないけど。
取り敢えず、倒した男にさっさと止めを刺そうと何とか立ち上がるが、
「太郎兵衛!無事か!」
という声と共に、敵の増援が2人…
いや、流石にこの身体の状態で、おかわりは無理ッス!
う~ん、倒れた男に槍を突きつけながら、2人を牽制するが、どうしたもんか…
途方に暮れていると、後方から『パーン』と、銃声が響く。
「殿!」
殿で鉄砲を撃っているはずの又蔵が現れる。
助かった!
「如何した、又蔵!」
「西より小寺家の兵が援軍に現れました!」
おや?東から来ている別所家の援軍が到着するより先に、西から小寺家の援軍が現れるとは…
「ほれ、お主等も早う逃げい。直ぐに援軍がやってくるぞ」
増援で現れた2人に向かって、余裕を見せつけて逃亡を奨める。
俺もこれ以上戦うの無理だから、頼むから逃げてくれ!
「くっ!西より敵の援軍だ!皆の者、退くぞ!」
増援の2人は、周りの者に撤退を呼び掛けると、俺が倒した親子2人を置いて逃走した。
どうやら狙い通り、こちらに援軍が来たのを聞いて、これ以上は無理だと撤退を決意してくれたようだ。
「討ち取らずとも宜しいのですか?」
「構わぬ。それより被害を調べよ」
又蔵が尋ねてくるが、護衛の任が第一だ。
要らぬちょっかいをかけて、被害を出したくない。
捕らえた者もいるし、無理に戦って反撃とかされるのは面倒だし。
それ以前に、足が痛いの我慢してるから、もう戦いたくない。
くそ!足が段々痛くなってきた。




