228 播磨へお使い【地図あり】
「傳兵衛殿、少し宜しいか?」
今日も政務に勤しんでると、村井民部少輔殿に呼び掛けられる。
「はっ、如何しました?」
「大樹の頼みで、播磨へ向かっていただきたいのだが」
「何事か御座いましたか?」
何で俺が播磨へ行かにゃならんのだ?
もしかして、立て続けに民部少輔殿に面倒事を押し付けたから、暫く京からいなくなって欲しいという事だろうか?
民部少輔殿には、正直済まないと思っているし、なるべく断りたくはないが。
「傳兵衛殿は、龍野の赤松下野守殿とは面識が御座いましたか?」
「別所孫右衛門(別所重宗)殿とは御会いした事が御座いますが、下野守(赤松政秀)殿とは面識は御座いませぬ」
民部少輔殿の言葉に首を振る。
昨年、三好家を本州より追い払う為に兵庫津へ向かった時に、足利義昭の援軍に向かう別所重宗に会った。
どうやら赤松政秀も、重宗の後を追う様に上洛したらしいのだが、俺が兵庫津を出て京へ向かった後だった為、出会う事はなかった。
「下野守殿は、娘を大樹の侍女にしようと京へ送り出されたのだが、途中小寺家によって捕らえられてしまった様だ。大樹の命により、娘は解放される事となったのだが、その娘を引き取りに向かう上野紀伊守殿の供として、織田家からも兵を出してもらいたいとの事だ。傳兵衛殿、頼まれてはもらえぬか?」
「殿の御許可があるのであれば構いませぬが…」
行くのは構わないんだけど…上野紀伊守って誰?
民部少輔殿の話では、上野紀伊守は、義昭の御供衆の一人で上野豪為とか言う人らしい…知らんけど。
まあ、誰でもいいか。
俺の仕事は往復の護衛だろ?
佐久間右衛門大夫殿の兵を動かす程の事でもないから、暇そうにしている俺の兵を動かしたいだけだろうし。
それより小寺家と言えば、黒田官兵衛がいるよな。
藤吉郎より先に官兵衛と出会うチャンスだ。
なんとか官兵衛と仲良くなりたいところだが。
さて、誰を連れていこうかな。
恐らく赤松家も積極的に織田家や足利家と事を構える気は無いだろうし、戦闘も起こらないだろう。
悩むが、一応護衛任務なので、結局暇そうな脳筋達を連れて行く事にする。
上野紀伊守等の幕臣達と合流し、まずは別所安治の次弟の吉親が治める、播磨の林ノ城へ向かう。
林ノ城では、別所吉親が出迎えてくれる。
後に秀吉と決裂して、三木の干殺しの引き金を引く事になる吉親だが、こちらは将軍の使いとしてやって来ているので、侮られる事は無いだろう。
「よく参られた。某、別所山城守に御座る」
うん、別段敵意とかは感じないかな?
「幕臣、上野紀伊守に御座る。此度の骨折り、誠に御苦労に御座った。大樹も大蔵大輔(別所安治)殿の働き、大層喜ばれておられる。今後も忠勤に励まれるようとの事に御座る」
「はっ、大蔵大輔に確と伝えまする」
上野豪為と別所吉親の挨拶が続くが、俺は吉親を観察する事にする。
どうにかして吉親を親織田派に鞍替えさせられないだろうか?
コイツが別所長治と共に離反したせいで、織田家の中国地方への侵攻が遅れた事は間違いない。
離反の原因が兄弟間の確執なら難しいのかな?
藤吉郎の出自の低さが問題だったのなら、藤吉郎を関わらせなければ良いが、織田家を馬鹿にしているならどうしようもないしな。
見た感じ、プライドが高くて、頭も固く融通が利かなそうな脳筋タイプに思える。
人の話なんか聞く耳持たなそうかな?
…やっぱり無理かな。
よく考えたら、藤吉郎が史実通りに中国地方を任されるなら、別に別所家などが離反しても構わないしな。
「小寺家との事は玄蕃頭に任せておりますれば、後は玄蕃頭が御着城へ案内致す。玄蕃頭、後は頼む」
豪為と吉親の話も終わったのだろう、玄蕃頭という男が紹介される。
「加古川城城主、糟屋玄蕃頭に御座る。御着城へは、某が御案内致す」
齢三十前後だろうか、まだ若い武将が紹介される。
加古川の糟屋さんか…
賤ヶ岳の七本槍の一人である糟屋武則のお兄ちゃんの…諱は朝正だか友政だか言ったかな?
確か実母は、御着城の城主である小寺政職の妹だったか。
その縁で、今回の道案内を任されたのだろうな。
う~ん、弟の武則くん、俺にくれないかなぁ…でも、まだ六歳か…




