223 再上洛
十月に入り、岐阜城におられる殿に挨拶をした後、伊勢回りでゆるゆると上洛する事にする。
まあ殿も、すぐに上洛されるんだけどね。
矢田城の滝川彦右衛門殿、萱生城の岩室長門守殿に挨拶し、自領の川尻城で一休みした後、神戸城の三七様の所に顔を出し、智積村で松木家の加賀姫にも挨拶して、本拠の水沢城へと入る。
柴田権六殿や丹羽五郎左殿の城などは、本人がまだ京にいるのでスルーさせてもらう。
居残り組の家臣に留守を頼み、関安芸守殿の亀山城で休憩した後、鈴鹿峠を越えて山中家、三雲家へと顔を出し、ついでに情報収集をする。
三雲家では、甲賀で人探しを命じていた三雲三郎左衛門が待っていた。
「殿、お探しの者が見つかりまして御座います」
三郎左衛門に家臣にしたい人物を何人か探させていたのだが、その内の誰かが見つかったのだろう。
「お探しの瀧孫平次なる者、探し出して御座います。明日からでも召し抱えられまする」
おお!瀧孫平次…中村一氏を見つけ出し、交渉も終えているなんて、三郎左衛門は出来る奴だな。
「でかした!直ぐに召し抱える!」
「はっ!それから、山中家より元六角家家臣渋谷宇助、岩室家より元幕臣の岩室吉兵衛の子、大平上野介なる者の推挙を受けております。如何致しますか?」
おお!本当に見込みのありそうな者も探してくれたのか…でも、誰やねん?
「折角の推挙だ、召し抱えよう。三郎左衛門は手配を頼む」
「承知致しました」
渋谷宇助に大平上野介…岩室吉兵衛…知らん。
もしかしたら、有名武将の親とか親戚とかは、あるかも知れないが、今すぐパッと思い浮かばないな。
でも、大平上野介の父親は、元幕臣らしいから、京での仕事に使えるかもしれない。
有り難く頂いておこう。
新たに3人の家臣を加え、京へと辿り着く。
多羅尾家にも顔を出したかったのだが、流石にルートから外れすぎなので、今回も諦めた。
夜更け前、京に入ると直ぐに森家が宿代わりにしている寺へと向かう。
「若、無事着かれましたか。今、殿は右衛門尉様、権六様と飲んでおられます。ささ、若も早う中へ」
寺の門を潜ると、出迎えの武藤五郎右衛門がやって来て、急かしてくる。
これは、俺を出しに酒宴に参加したいだけだな。
相変わらずで、なによりだよ。
「殿!若が参られましたぞ!」
どすどすと、足音を響かせて親父達呑んだくれ共のいる所へ向かう。
「傳兵衛、参ったか!丁度良い、お主も付き合え!五郎右衛門も一杯飲んで行け!」
右衛門尉殿が御機嫌で、酒を勧めてくる。
其処に居るのは、既に出来上がった親父と柴田権六殿、佐久間右衛門尉殿の三人。
当然、五郎右衛門も喜んで酒を飲んでいる。
「殿の御計らいで、我らにも官位が与えられる事となったのだ」
権六殿が教えてくれるが、それを喜んでの酒宴らしい。
しかし、殿ならば官位とか断りそうなものなのにな。
関白殿下(近衞前久)や足利義昭のプッシュに屈したのかな?
「それはおめでとう御座いまする。して、如何な位を?」
殿の官位が正五位下備後守なので、それ以下なのだろが。
「半羽介が従五位下に昇叙、権六が正六位下行修理少進、儂が正六位下行伊豆守だ」
皆が従五位以下なのは当然として、権六殿が修理進というのは、史実で修理亮を名乗っているだけに、スケールダウン感があるな。
修理進と書いてある書状も残っていた様な気もするが…
親父の伊豆守は、ただ単に先祖の源義隆が伊豆守だったからだろうな。
他にも左衛門尉も持っていたけど、三左衛門から左衛門尉に名乗りを変えるのは、ちょっとね…数字が減ってるし。
右衛門尉殿の官職はそのままだが、位階が正六位下から従五位下に昇叙となった。
五位の右衛門少尉だから、右衛門大夫に名乗りが変わるのかな。
しかし、こんなに官位を貰えるとはね。
史実の殿ならば、キッパリ断りそうなものだが…
良い事なのか悪い事なのか、どっちだろう?
「それは、おめでとう御座いまする。右衛門大夫殿、修理進殿」
「こそばゆいわ傳兵衛。今のまま権六で良い」
権六殿は、笑いながら修理進ではなく、今まで通り権六と呼べと言ってくれる。
じゃあ、有り難くプライベートでは、そのまま呼ばせていただこう。
右衛門尉殿は…あっ、右衛門大夫と呼んで欲しいのね…
「して、京では何かありましたか?」
翌日、酒の抜けた親父に京の状況を尋ねる。
「北の朝倉家が若狭に攻め込んだ事で、大樹様が大層御立腹だ。直ぐにでも兵を出せと催促が来る」
うん、情報通りだな。
「それは、備前(浅井長政)殿にお任せするべきに御座いましょう。こちらは伊勢も攻めねばならず、とても構うてはおれませぬ」
「うむ、やはり備前殿にお任せするべきか…」
「浅井家と手を結んだ折に、朝倉家へ勝手に攻め込まぬといった約定があったかも知れませぬ。ならば、浅井家に任せておけば、後に朝倉家へ兵を出す事になろうとも、説得出来なかった浅井家の責任。此方へ非難の矢を向ける事は出来ますまい」
浅井に戦を回避する交渉をさせているのだから、ダメだった場合もこちらに非はない。
浅井長政が交渉に失敗したせいなんだから。
原因を作ったのも朝倉家なんだからな。
「若狭はそれで良いとして、残るは播磨の赤松家だな」
え!播磨にも何かあるん?
「龍野城の赤松下野守が娘を大樹様の侍女にしようと送り出したのだが、途中御着城の小寺加賀守に捕らわれたらしい。加賀守には無事京へ送るよう言っておるがな」
赤松下野守政秀の娘が小寺加賀守政職に捕まった。
そういえばあったな、そういう話が…
赤松下野守は、赤松氏の分家筋だが本家の赤松義祐と仲が悪い。
下野守は足利義昭の上洛に対して、最初から支援しているし、此度娘を義昭の侍女にしようと送り出したのだが、義祐は下野守が分家の分際で勝手に義昭に擦り寄っているのが気に食わないし、ひょっとして自分の地位を狙っているのではないかと疑っているらしい。
そこで重臣の小寺加賀守に命じて、娘を捕らえさせたのだ。
因みに、小寺加賀守の家臣には、黒田官兵衛がいる。
「では、出陣もあり得ると?」
「いや、まだ下野守からの話は無い。まだ自力で何とかする積もりであろうな」
う~ん、出兵があるかどうかは微妙かな?
ぶっちゃけ赤松下野守が生き延びると、少々面倒な事になるかもしれないからな。
捕らわれてる娘が義昭の子供を生むから、義昭の義父になってしまう。
将来、高確率で義昭側に付くので、そのまま滅んでほしい。
一応、情報収集は怠らずにいよう。
「多少兵は残していく。清右衛門と加賀右衛門を置いていくので好きに使え」
「有難う御座います」
兵を置いていってくれるのは助かるよ。




