220 香炉
妹弟達の所に顔を出してから、金山城を後にする。
爺ちゃんの話では、特に問題も起こっていない様なので、護衛に多羅尾彦市と小姓連中を連れて、久々利に陶工の様子を見に行く。
先ずは、加藤兄弟の次男の五郎左衛門の
窯へ行き、出来た茶碗を見せてもらう。
うん、よく出来てるんじゃないだろうか…知らんけど。
残る加藤兄弟(瀬戸に残った長男を除いた3人)の窯も回り、それぞれの窯で出来た茶器や花器、香炉など計12点を受け取る。
自分用に使う物と、プレゼン用に配る物だ。
4兄弟の茶碗を、俺が1つずつキープするとして、残り8つ。
殿と親父、千宗易、松永久秀、それに共同出資者の妻木源二郎殿の5人に渡すとして、残り3つはどうしょうかな?
さて、皆がウチの茶器を気に入ってくれると嬉しいが、茶器はまだまだ唐物が最上級の時代。
早く唐物から国産に切り替わってくれればいいのだが。
手に入れたばかりの茶器や香炉を持って、殿のいる岐阜城へと向かう。
殿には出来上がった茶碗の中で、2番目に良いと思った物を献上しよう。
1番良い物は、少しでも良い評価がもらえる様に、千宗易に送りつけるつもりだ。
因みに、俺が自分用に確保した物は4番目だ。
後からもっと良い物が出来るだろうし。
城へ向かい、殿への取次ぎを頼むと、いつもなら堀菊千代が出てくる所だが、知らない若者が現れる。
美少年といっても差し支えない端正な顔立ちの若者だ。
多分年齢的に、殿の小姓だろうな。
「森傳兵衛殿に御座いますな?某、坂井久蔵と申します」
「お主が久蔵殿か!」
おお!コイツが坂井久蔵か!
成る程…殿に気に入られて、これから出世しそうな面構えだな…討ち死にしなければな。
「此度の婚礼の事、骨折り感謝致します」
久蔵が頭を下げてくるが、突っ掛かっていたのはウチの親父の方だからなぁ。
しかし、久蔵の方から頭を下げてくるとは、性格も悪くはなさそうだな。
俺との相性が悪いという訳でもなさそうか…坂井家との仲が悪かったのは、やっぱり親父のせいかな?
「何、其方の御父上の御陰に御座る。森家一同、大変感謝していたと、御父上にお伝えしていただきたい」
せっかく坂井家と縁が出来るのだから、仲良くしていきたいよね。
「ところで、堀久太郎は如何した?」
何時もなら久太郎が真っ先に俺の相手をするんだが、出てこないとなると何処かへ出掛けているのかな?
「久太郎殿は、今は殿の命にて京に残っております」
京に残って仕事をしてたのか…まあ、その為に元服させたんだろうしな。
頑張って実績を残して、何れ大名にまで出世してもらいたいものだ。
雑談しならがら久蔵に、殿の元へと案内される。
殿の周りには小姓連中がいるが、他にも見知らぬ男が控えている。
武人には見えないので文化人なのかな?
うん、全く見た事のない人物だな。
「傳兵衛、陶器を持参したとの事だが?」
殿の言葉に、持ってきた茶碗、花入れ、香炉を差し出す。
「窯を開かせたばかりですが、中々の出来ではないかと。これからの向上も見込めます」
俺は目利きなんて出来ないが、職人は超一流だから、なんとか良い評価を下さい。
殿は、茶碗を手に取り眺めている。
「ふむ、良い出来ではないか?隆勝は、如何思う?」
殿は、側に控えている隆勝という人物に話を振る。
隆勝は俺の持ってきた香炉を眺めながら、答える。
「ほう、美濃で作られた物に御座いますな。良い出来に御座います」
そうそう、良い作品なんです。
それが分かる隆勝さんとやらは出来る人だな。
「うむ、隆勝が良いと言うのならば、間違いはあるまい」
ほう、流石は隆勝殿だな…で?高名な人なの?
「傳兵衛。この者は建部隆勝と申して、香道の大家よ。この者が、太鼓判を押すならば間違いはあるまい」
殿の紹介に誰だったかなと思い出そうとする。
建部隆勝…近江の香道家だったな。
観音寺城の戦いの後で、織田家に降ったのだろうな。
「傳兵衛殿の話は、よく聞いております。織田家中でも名うての数寄者だとか」
俺って数寄者で通ってるんだろうか?
「数寄者とは畏れ多い。ただの未熟者に御座います」
「傳兵衛殿は、香を聞かぬのですかな?」
香道はやらないのかって事だよなぁ。
茶室に香を焚いたりするので、覚えた方がいいんだろうけど…
どうせなら三道(華道、茶道、香道or書道)を極めてみようかな?




