219 美濃への帰還
殿は、京での諸事を終え、岐阜へと戻られる事になった。
殿が美濃へ出立すると、俺も京を発つ。
帰路の途中、俺は今回の上洛で特に協力的だった甲賀の青木、三雲、伴、山中、佐治、岩室、頓宮、土山、山中(分家)、黒川の各家に、ちょこちょこ顔を出しながら、のんびりと本拠の伊勢水沢城を目指す。
せっかく縁が出来たのだから、大切にしないとね。
だって六角承禎、義治親子は生きてるし、義定も逃亡して生きているので、甲賀衆と織田家の関係を少しでも強化しておかないと。
本当は多羅尾家にも顔を出したかったが、ちょっと遠いので、今回は手紙だけの挨拶で。
鈴鹿山脈を越えて水沢城へと戻ると、茶畑の手配を済ませ、後の事は名取将監に任せて美濃金山城を目指す。
「傳兵衛、よう戻った」
金山城へ戻ると爺ちゃんが、久しぶりに帰郷した孫を見る様な感じで、出迎えてくれる。
上洛前に会ってるから、2ヶ月ぶりだよ?
「皆、変わりありませんか?」
「うむ、そろそろ傳兵衛の新しい弟が生まれそうじゃな」
おう、そろそろ五男の於力ちゃんが生まれるのか…
於力ちゃんこと森長氏は、俺のライバルだ…影の薄さで…
四男の於坊とセット売りにされた上に、三男の於乱の存在感に掻き消されてしまう可哀想な於力ちゃんvs存在自体を消されてしまう事も少なくない長男の俺。
どちらが森兄弟最弱か…
悪いがこの世界では圧勝させてもらうぞ!
「兄上!」
爺ちゃんと話していると、於勝ちゃんが現れる。
「如何した、於勝?」
今日は俺の側に爺ちゃんがいるからか、いきなり襲いかかってはこない様だ。
「兄上!俺の元服の話はどうなった?」
またかよ…変わらないなぁ。
お前が元服なんて、まだまだ早いっつ~の。
「いま父上は、お役目でそれどころではない。お主もその様な事を言う暇があるなら、政を覚えよ。そうすれば、父上も認めてくれよう」
武力ばかり鍛えてないで、政務もちゃんと覚えなさい。
このまま鬼武蔵ルートに行ってもいいんですか?
お兄ちゃんは心配です。
まとわりつく於勝ちゃんの事を爺ちゃんに任せて、母の所へ顔を出す。
手紙で知らせてはあるし、母の父親である家老の林新右衛門からも既に話は聞いてはいるだろうが、俺の口からも2人の妹の結婚話をしないといけないだろう。
「母上、只今戻りました」
母の元へ向かい、帰還の挨拶をする。
俺は別の城に住んでいるが、母は「ただいま」とか「戻りました」と言うと喜ぶので、そう言う事にしている。
「よくぞ御無事に戻られました、傳兵衛殿」
母と暫く挨拶や近況を報告した後、本題に入る。
「藤は、加治田佐藤家の長沼藤治兵衛との婚姻が決まりました。藤治兵衛は佐藤紀伊守殿の養子となった後、当家へ婿入りする形となります。婚礼は年内となりましょう」
次妹の藤の結婚は問題ない。
出来れば年内に片付けてしまいたいだけだ。
「年内にですか…」
「まだ半年程猶予が御座います。藤の事は我等に任せ、母上は丈夫な子を生む事のみを御考え下さい」
母は出産間近だ。
こんな事に頭を悩ます必要はない。
藤と藤治兵衛の婚姻の報告を終え、立ち去ろうとする。
「御待ちなさい、傳兵衛殿。大事な話は此れからの筈。松の話が、未だに御座いましょう」
くっ!誤魔化せなかったか…
「坂井久蔵殿は、来年正月に元服した後、恐らくは南伊勢の北畠家討伐で初陣となりましょう。松との婚姻は、その後になります。まだ一年程後の事に御座います故、御心配は無用に御座います」
三妹の松が坂井久蔵と結婚するまで、まだ一年くらいある。
「傳兵衛殿?」
母に睨まれて、ため息を吐く。
先に届けた手紙に詳しく書いておいたので、既に知ってるだろうに…俺の口から直に聞きたいのか。
「来年正月に、松は備後守様の養女となる事が決まりました。久蔵殿には織田家の姫として嫁ぐ事になります」
三妹の松は、来年正月に殿の養女となる事が決まっている。
まあ、名誉な事なのは間違いない。
「やはり、そうですか…大丈夫なのですか?」
「問題御座いませぬ」
後の事は親父が何とかするだろう。
式も織田家がやるので、ウチが準備する必要もないし。
やる事といえば、松の教育くらいじゃないかな?
これで用件は終わりかな?
「ところで、傳兵衛殿の婚姻は、どうなっているのでしょう?」
…知らん。




