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討ち死になんて勘弁な  作者: 悠夜
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218 長沼藤治兵衛

 6人の男が密室でひっそりと顔を付き合わせ相談している。

 俺、俺の家臣の本多弥八郎、森家家老の林新右衛門、加治田佐藤家当主の佐藤右近右衛門殿、その家老の長沼三徳、その嫡男の藤治兵衛の6人。

 右近右衛門殿の呼び掛けで、佐藤家の宿泊先に集合した。


「傳兵衛様、三左衛門様が愚息に過分な評価をして頂けるのは有り難いのですが…」


 長沼三徳が、困り顔で頭を下げる。


「父上が藤治兵衛を大層気に入った様で、無理を言って済まぬ」


 俺は迷惑をかけている佐藤家側の3人に謝罪する。


「とんでも御座いませぬ!有り難い御話に御座います。しかし、織田家重臣の森家に、佐藤家の陪臣である某が婿入りするのは…」


 藤治兵衛が、俺の謝罪に慌てている。


「右近右衛門殿にも、家臣を引き抜く様な真似をして申し訳ない」


「気にする事はない。藤治兵衛を高く評価されての事であろう。藤治兵衛には弟もおるしな」


 事の発端は、ウチの親父が此度の上洛戦において、佐藤家の藤治兵衛の槍働きを見て惚れ込み、藤治兵衛を婿養子にくれと言い出した事だ。

 もう、何度もしつこくしつこく説得しに来るらしい。

 俺がこの場にいるのは、佐藤家当主の右近右衛門殿は俺の友人なので、俺からも説得する様に親父に命令されたからだ。


 この話を聞かされて、森可成が長沼藤治兵衛を娘婿にしようとするが、織田信長にストップをくらい、娘は坂井政尚の息子の久蔵と結婚する事が決まるが、久蔵が姉川の戦いで討ち死にした為に、結局関成政に嫁ぐ事になるというエピソードを思い出した。

 久蔵は、1570年に姉川の戦いで討ち死にしているんだから、エピソードの年代は1569年だよなぁ。

 今は、1567年…少し早くない?


 妹の婿を坂井久蔵にするか、それとも長沼藤治兵衛にするか…妹の幸せを願うなら、長沼藤治兵衛に婿養子に来てもらう方が良いかな。

 久蔵は姉川の戦いで討ち死にするかも知れないし、討ち死にを阻止するとしても他家の人間なんてフォロー出来ない。


 長沼藤治兵衛は、斎藤利堯の家臣として本能寺の変の後に於勝ちゃんと敵対する事になるが、加治田・兼山合戦で亡くなっている。

 今回、藤治兵衛を婿養子にしておけば、将来の敵の戦力を奪って、討ち死にも防げる。


 うん、藤治兵衛と結婚させる方がマシかな?


 まあ、討ち死にして家督を斎藤利治に奪われるはずだった佐藤右近右衛門殿は生きているし、俺とは良好な関係なので、将来敵対する可能性は低いとは思うから、断られても構わないけどな。


「次男が居られるのならば、両家の縁を結ぶ為にも、当家へ婿養子に出して頂けまいか?」


 林新右衛門は、親父の命令を成功させようと粘っている。

 右近右衛門殿も森家との縁を強化出来るチャンスだから、構わないと思っている様だし、このまま押しきれるのかな?


 結局、三徳は新右衛門の粘りに折れ、ウチの妹と藤治兵衛との結婚を了承した。

 これで親父もニコニコだろう。



 しかし数日後、また前の6人で集まる事になった。

 問題が起きたからだ。


 前回、俺の次妹の藤と長沼藤治兵衛の婚約が決まったのだが、それを知った殿から待ったが掛かった。

 ウチの親父と坂井右近将監殿が不仲なのを心配して、藤を藤治兵衛とではなく右近将監殿の嫡男の久蔵と婚姻させよと命じられたのだ。

 親父は途端に不機嫌となり、殿の命令を突っぱねていたのだが、空気を察した右近将監殿が自ら親父に頭を下げて久蔵との婚姻を願い出た事で、流石に親父も渋々その婚姻を認めるに致った。


 まあ俺は、この逸話は知っていたので、やっぱり殿の横槍が入ったかという感じだったのだが、ここで親父は次妹の藤と藤治兵衛との婚姻はそのままで、久蔵には三妹の松を嫁がせると言い出した。

 それに対して長沼三徳は、藤治兵衛が重臣の坂井家の嫡男である久蔵と義兄弟となるなど、重ねて畏れ多いと断ってきた。

 だからもう一度この婚姻を成立させるべく、再び親父の命令で俺達は佐藤家を訪れる事になってしまった。


 親父も要らん事を思い付かなくてもいいのにな。

 それに三徳も遠慮なんかせずに、婚姻を受け入れればいいのに。

 公家でもないのに家格とか無いやろ。

 前回は押しきられたので、断る良い口実になったと思っているのかもしれないが。


 林新右衛門は、婚姻を受ける様に長沼三徳と藤治兵衛を必死に説得している。

 俺と弥八郎、右近右衛門殿の3人は、それを眺めながら、どうしたものかと互いに思案する。

 正直、藤治兵衛の好きにさせてやれば良いと思っているので、ヤル気が出ないが…


「藤治兵衛殿を佐藤家の養子とするのは如何に御座いましょう?」


 そんな中、弥八郎が提案をしてくる。

 成る程、家格が問題と言うなら、藤治兵衛の家格を上げてやれば良い。

 はっきり言って藤治兵衛の結婚の話など、纏まろうが破談になろうが、どっちでも構わないから、頭が回っていなかったな。

 正直、姉川の戦いで討ち死にする坂井久蔵をどうするかの方が重要だし。

 でも久蔵にも会った事もないから、どういう人物かも分からん。



「それは良い考えだ。どうだ三徳、藤治兵衛?元々、弟に家督を継がせる予定であったのだ。父上の養子とし、佐藤家より森家へ婿として送り出そうではないか!」


 長沼家から養子に出すより、自分の家から出した方が、より強固な縁になると、乗り気な右近右衛門殿が長沼親子を説得に掛かる。

 これなら、断りきれずに婚姻が決まるのではないかな?

 前回も押し切られた2人だし、今回も押し切られる事だろう。

 これで問題解決だな。


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― 新着の感想 ―
[一言] 坂井久蔵の事より、傳兵衛の方が先に討ち死にするでしょ。それをどうにかするお話ですよね。主人公の活躍で時期が早まってるけど、ほぼ史実をなぞっているってことは、運命の朝倉攻めはもうすぐやって来る…
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