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討ち死になんて勘弁な  作者: 悠夜
220/554

212 茶

「傳兵衛、望む物はあるか?」


 殿に呼び出されて、そんな事を言われる。

 大島鵜八の移籍料の事だろう。

 少し前に竹丸も召し上げられてるしね。

 俺が与えていた鵜八の知行と、新しく殿が支払う知行の差額に、色を付けて加増してもらうのは当然として、他に何か…


 本当は近江に纏まった領地を頂きたいのだが、無理なのは分かってるさ。

 なら、知行とは関係のない物を貰おうか。



「領内にて茶の木を育てたいと考えております。叶いますならば、宇治より茶の木を持ち帰る事と、幾人か借り受けたく…」


 思いきって、お茶を栽培したいので、茶の木と、栽培のノウハウを持った人を派遣して下さいと御願いしてみる。


「ふむ、金銭ではなく、茶を望むか…」


「鵜八も、その前の竹丸も、決して金銭に変えられる様な者達では御座りませぬ」


 そう、金銭トレードなんて真っ平御免だぜ!

 最も利益が出せて、俺の役に立つ物と交換して貰いたい。


「お主、茶器ばかりか、茶も自らの手で作らねば気が済まぬのか?」


 俺は、武将との交流を深める為に茶の湯を学んだ。

 とは言え、茶の湯にはお金がかかる。

 経費を節減し、尚且(なおか)つお金が儲かる様に道具を自前で作る事にした。

 その為に、久々利の地に一流の陶工を招致し窯を開かせ、茶器の製造を始めた。

 しかし、まだ足りない物がある…そう、お茶だ!

 いや、茶釜など鋳物や、茶筅や茶杓などの竹製の物にもまだ手を出してないけど…

 兎に角、お茶が無いのに茶の湯は出来ぬ。

 という事で、宇治の茶園に茶の木を分けてもらおう!

 ついでに、それを育てるノウハウを持った職人も派遣してくれたら嬉しいな?

 分けてくれるかなぁ?


「流石に己の道楽の為では御座いませぬ。頂いた水沢(すいざわ)の地を見て、茶を育てるのに適しておるのではと思った次第に御座います」


 自分の欲の為に茶を育てたいと思われてもアレだから、否定はしておこう。


「…良かろう。宇治朝日の茶園は武衛家の物故、そこより手配するが良い」


「はっ、有り難う御座いまする!」


 やったぜ!ノウハウをパクってやるぜ!

 足利義満の時代に宇治に造られた6つの茶園の一つ、朝日園は斯波氏が造らせたものだ。

 ちなみに残りは、将軍家と京極氏が2つずつに山名家が1つ。

 これに上林家の茶園を加えて、宇治七茗園と呼ばれている。

 前世で現存していたのは、京極家の奥山園だけしかなかったが。



 早速、増田仁右衛門を朝日園へ向かわせる。

 後の事は、水沢城に残っている名取将監と加治孫九郎に任せよう。


 ああ、これで自分の茶畑を造る事が出来るぞ。

 楽しみだな。


 とはいえ、幾らお茶を作った所で、宇治茶に勝てる訳がない。

 旨い不味いの話ではなく、格とか権威とかの話だな。

 どれだけ頑張って作っても朝廷や公家連中は、宇治茶の方を有り難がるに決まっている。

 だから、抹茶で勝負はしない。

 勿論、俺が茶の湯で使いたいので抹茶も作りはするが、本命は煎茶だ。

 確か、玉露や冠茶などは、収穫前に日光を遮ってやるんだったな。

 もう宇治では、抹茶を作る時に被せ物をして日光を遮っているので、その応用で玉露とかも作れるんじゃないかな?

 その為に、宇治茶の農家まで連れて行く許可を貰ったんだからな。

 後は、番茶や焙じ茶なんかも作ってみたいし、発酵させれば紅茶に、半発酵させれば烏龍茶になるんだっけ?

 発酵のさせ方とか知らんけど、インドから船でヨーロッパに運んでる間に紅茶になったそうだから、いけるんじゃない?

 その話が、本当かどうかも知らんけど…

 俺はお茶職人でも何でもないし、知識もあやふやだから、茶農家に大まかに指示を出して、試行錯誤してもらうしかないんだけどな。


 どれか一発でも成功してくれたらいいなぁ…最悪全部外れでも、俺が茶の湯で使う分の抹茶は確保できるけど、それだけじゃ赤字だしな…

 この煎茶や紅茶などは、まだ作られてない…ひょっとしたら個人で飲んでる人はいるかもしれないが、少なくとも商売にはなってないはずだから、当たればデカいよね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 青製煎茶製法を知っていれば現代の煎茶が作れるんだけどなあ
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