208 摂津へ
別所重宗視点です。
播磨国美嚢郡三木村三木城 別所孫右衛門重宗
兄の大蔵大夫に居城に呼び出される。
用件は此度の左馬頭様の上洛に関しての事であろう。
儂も、いつでも出陣出来る様に既に兵を集めている。
三木城に入ると、既に兄の山城守(別所吉親)や家老の三宅肥前守(三宅治忠)、淡河弾正忠(淡河定範)も集まって居った。
「先日、左馬頭様、織田備後守殿が観音寺城の六角家を破ったとの知らせがあった。これを期に東播磨二郡におる三好勢を駆逐する!」
おお!遂に東播磨より三好家を追い払う時が来たか!
「明石郡は儂が取り戻す。山城守は加古郡を、肥前守には城の守りを命じる」
「はっ!」
ふむ、当主自ら動かずとも、儂が明石郡を攻めれば良いのではないか?
「孫右衛門、お主は弾正忠等と共に摂津へ向かい、左馬頭様に合力せよ」
「承知致しました」
成る程、儂と義弟の淡河弾正忠は、一門を率いて摂津へ向かい、左馬頭様に恩を売ってこいという事か…
「弾正忠も宜しく頼む」
「お任せくだされ」
淡河弾正忠も快く応じる。
兵を率いて摂津国を目指すと、国境において儂等を迎え撃とうと出陣してきた三好家の兵と会敵する。
この辺りは三好家の岫雲斎怒朴(篠原長房)が治めている。
「今こそ憎き三好一党を四国へ追い返す時!皆の者、攻め懸かれ!」
号令を出すと、今までの恨みとばかり、我先にと篠原家の兵に襲いかかる。
「孫右衛門殿、些か敵の歯応えが無さすぎとは思わぬか?」
戦が始まって暫く後、弾正忠が疑問を投げ掛けて来る。
戦は終始、此方が有利に運んでいるが、それにしても弾正忠の言う様に敵に歯応えが無さすぎる。
何かの罠でも仕掛けておるのかとも考えたが、結局何事もなく蹴散らす事が出来た。
「孫右衛門殿、捕らえた者の話では、三好勢は既に四国へ撤退しており、奴等は残って刻を稼いでいた模様に御座る」
石野越後の話に、成る程と頷く。
では、主な者は既に海を渡っておろうな。
「弾正忠、お主は兵庫津へ向かい、本当に篠原家が四国へと逃げ帰ったかの確認を。儂等はこのまま東へ向かう」
「承知した。此方は任されよ」
淡河弾正忠を兵庫津へと向かわせ、儂等は東へと向かう。
暫くすると、正面に何処かの軍勢が見えてくる。
「どこの軍勢か?」
近くにいた渡瀬小次郎に訊ねる。
「分かりませぬな。しかし、逃げる様子も見せぬという事は、三好に与する者ではありますまい」
小次郎の答えに頷く。
やはり、足利家の軍勢であろうな。
「殿!向かいの軍より、御使者が来られております!」
家臣の吉田伊賀守より知らせが来る。
「何処の家中の者か?」
「織田備後守殿の家臣森傳兵衛殿と申されております。左馬頭様の命により、兵庫津を押さえに参られたと」
「直ぐにお連れ致せ」
既に、この辺りにまで兵を進めておるとはな。
あわよくば摂津の一部なりとも切り取りたかったのだが、間に合わなんだか…致し方あるまい。
「織田備後守が家臣、森傳兵衛に御座る」
「別所大蔵大夫が三弟、孫右衛門に御座る」
儂の半分にも満たぬ齢であろう若い武者と対面する。
森といえば、備後守の重臣の一人であったか?
恐らく、その縁者なのであろう。
「左馬頭様の命により、三好家を駆逐し摂津を平らげに参った」
であろうな…しかし、速い。
此方も左馬頭様が六角家を降したとの知らせがあってから、直ぐに出陣したのだが…
先の三好家の残党との戦がなければ、間に合っておったか…
「先に御知らせした通り、別所家は此度の戦、左馬頭様に御助力致す事を決め申した。我等は三好家を討伐しつつ、左馬頭様の元へ向かう途上に御座る」
別所家は予てより、左馬頭様の味方をすると書状を送っている。
それは、三好家によって不本意な従属を強いられていた別所家としては当然の事。
先方も承知の筈。
「流石は大蔵大夫殿。左馬頭様もお喜びになりましょう。先ずは滝山城にて兵馬を御休め下され。その間に、別所家の来援の知らせを道中に送りまする」
む…
「いや、我等は一刻も早く左馬頭様の元へ向かいたい」
「いやいや、知らせもなく別所家の軍勢が摂津を行軍すれば、味方の国人衆も身構えましょう。先触れを出し、来援を知らせておけば、要らぬ諍いも起こりますまい」
先に左馬頭様に知らせを送り、摂津の一部の切り取りを認めさせようと思ったが、そうはいかぬか。
「承知致した。なるべく早くに先触れを頼む」
傳兵衛とやらの提案通りに一先ず滝山城へと入り、兵馬を休める事にする。




