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討ち死になんて勘弁な  作者: 悠夜
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207 兵庫津

 摂津国兵庫津 前野将右衛門長康


 殿の命により兵庫津へやって来たが、既に三好家の残党は阿波へ渡ってしまった後で、町衆にこれからは足利家が支配する事を告げるだけとなった。



 殿を待つ間、湊に留まっている船をじっと見つめる。

 源平の頃よりは寂れたとはいえ、こうして大きな湊と船を眺めるとは、感慨深い。

 殿と初めて会うてから丸九年。

 まさか堺より西へ出向くことになろうとは、思わなんだな。



「将右衛門!西に何処ぞかの軍勢が見える!今、物見を出した!」


 突然、殿より与力として貸し出された、儂の親族でもある森小一郎(正久)が駆け込んでくる。


「なに!何処の者だ!」


「旗印は…丸の内三つ鱗、恐らくは播磨の淡河(おうご)家かと思われるが…」


 播磨の淡河家といえば別所家の麾下の家、恐らくは味方であろうが…

 別所家や龍野(たつの)赤松家であれば、はっきりと味方であると言えるだろうが、他家であればどちらとも言えぬし、そもそも本当に淡河家なのかも分からない。


 取り敢えず物見の報告を待っていると、同じく与力の梶田隼人(直繁)が駆け込んでくる。


「将右衛門!物見が戻った。どうやら播磨の別所家が三好家の兵を蹴散らしに参った様だ。此方の方が一歩早かった様だがな。あれに見えるは、やはり淡河家の軍勢だ」


「別所家は、此度の戦において左馬頭様の上洛を支持しておる。決して手を出すなと厳命せよ!至急殿に、お越しいただかねばなるまい。小一郎、お主は殿へ知らせよ。儂は淡河家へ参る」


 小一郎に殿への知らせを頼み、西の淡河家の軍勢へ向かう。



「織田家家臣森傳兵衛が家老、前野将右衛門に御座る」


「淡河家当主、淡河弾正忠と申す。別所孫右衛門殿と共に、左馬頭様をお助けすべく、三好家の討伐に参った」


 やはり、援軍であったな。


「おお、それは左馬頭様も大変お喜びになられましょう」


 どうやらここから西にはもう三好家の残党はおらぬ様だな。

 結局、三好勢と槍を交える機会は余りなかったか。

 弾正忠殿と暫し状況を話し合っている内に、殿より連絡が入る。


「弾正忠殿、一旦兵を滝山城へ入れ休まれよ。既に孫右衛門殿も滝山城へ向かわれておられる」


「承知致した」



 滝山城へ向かう淡河家の兵と別れて、兵庫津へと戻ると、殿が既に参られておられた。


「殿、滝山城に別所家の兵を入れても構わぬのですか?」


 折角奪い取った城に、援軍とはいえ他家を入れても大丈夫なのであろうか?


「左馬頭様の援軍として参った者を、儂が勝手に追い返す訳にもいくまい」


「それはそうに御座いますが…」


「別所家は以前より左馬頭様を支持しておる故、邪険にする訳にもいかぬ。それに滝山城を守ったとて、どうせ足利家の城となるだけで、織田家の城にはならぬ。それよりも、この兵庫津の方が大事。殿が兵庫津まで欲されるかは分からぬが、別所家に取られる訳にはいかぬ」


 成る程、滝山城を手に入れても、誰に任せるかは左馬頭様次第。

 別所家が手に入れられるかどうかも分からぬし、ましてや美濃より遠く離れた城が織田家の物になる事はないだろう。

 それに熱田、津島と、昔から湊を治め、物の流れを制してきた備後守様ならば、滝山城より兵庫津の方が喜ばれるだろう。

 殿の言われるように、備後守様が西の外れにある兵庫津を必要とするかは分からぬが、城一つより津の方が価値があるだろう。

 まあ、別所家が左馬頭様より滝山城を貰えるかどうかも分からぬがな。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます。 [一言] ≫織田家家臣森傳兵衛が家老、前野将右衛門に御座る 他の家老は斎藤内蔵助、竹腰摂津守、青木次郎左衛門辺りか。森越後守は一門筆頭、森勝三郎は乳兄弟で腹心、…
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