206 摂津の端へ【地図あり】
吹田での戦いは、伊丹家の援軍もあって無事に我々が勝利を収めた。
ここで森、柴田、坂井、蜂屋の四将の合同軍は解散となり、バラバラに行動する事になった。
織田本隊は、摂津国人衆の最大勢力である池田氏の本拠、池田城を攻める事となっている。
そして、佐久間半羽介殿、岩室長門守殿、和田紀伊守殿等は、松永久秀への援軍として大和国へと向かう。
後の者は、四国へと逃げる三好勢への追撃と、摂津、河内、和泉三国の残党狩りの為に分散して動く。
我等森家は、現代の兵庫県西宮市にある摂津越水城を目指し進軍する。
この城は、讃岐に本拠を置く三好氏の本州への足掛かりとなっていて、この辺りから本州に上陸している事も多く、重要な城の一つとなっている。
まあ、既に三好勢の大半は讃岐へと逃げ出しており、有力国人の伊丹氏、塩川氏、能勢氏などは臣従を申し出ているので、ほぼ戦う事もなく越水城を占拠出来た。
途中、瓦林正頼の子孫を名乗る、瓦林三河守とかいう奴が蜂起して瓦林城に篭り、織田家に臣従してきたが、味方なので割愛させてもらおう。
瓦林家は、この一帯を治めていた有力国人らしい…よく知らんけど。
「傳兵衛、お主に後の事は任せる。代わりの者が来るまで、三好に備えよ。儂は殿の援軍に池田城へと向かう」
「承知致しました」
親父は、まだ交戦中の池田城へと向かう。
俺は、この越水城に残り、三好勢の反撃や、逃げてくる奴等の捕縛に備える。
まあ、代わりの者が派遣される迄の間だし、流石に今すぐ三好家が反撃してくる事もないだろう…
「内蔵助、茂助、仁右衛門は越水城に残り、後を頼む。残りの軍勢で西の鷹尾城、滝山城を奪う。城主の岫雲斎怒朴は既に讃岐へ逃げたはず。残っている兵は居らぬとは思うが油断はするな。叶うならば兵庫津まで行こうかと思う」
岫雲斎怒朴こと篠原長房は、既に四国へ逃げ去ったはずだが、その長房の治めていた城がまだ幾つか残っている。
他勢力に取られる前に我等で押さえておきたいが、無理して取りに行く程でもない。
どうせ後で義昭に取られるので、織田家の城になる訳でもないのだから。
というか今回、織田家は、堺、大津、草津に代官を置く許可を貰うだけで、あまり領地は増えないはずだし!
報奨は金銭物品で支払われるのかな?
その代わり、兵庫津は押さえておきたい。
日本の代表的な港の一つで、かつて平清盛の日宋貿易、足利義満の日明貿易で栄えた港だ。
その後、豊臣秀吉の頃になると再び繁栄を取り戻し、それは幕末に外国人の居留地となった東隣の神戸に、その座を奪われるまで続く。
今は続く戦乱で壊滅状態となり、しかも瀬戸内海が不穏なせいもあって、その繁栄を堺に奪われているが、まだまだ結構なポテンシャルを秘めている港なので、是非とも押さえて点数を稼いでおきたい。
三好の残党が逃げ込んでいるかも知れないし…それは流石にないか。
内蔵助等に越水城を任せ、急ぎ鷹尾城へと向かう。
鷹尾城は瓦林氏が築いた平城の芦屋城と山城の鷹尾山城からなる城だが、もぬけの殻となっていた。
三好の残党も、疾うの昔に讃岐へ逃げ帰ったのだろう。
この分では滝山城も同じかな…
「次郎兵衛、お主に鷹尾城を任せる。半蔵、お主は一党を引き連れ滝山城を目指せ。敵は居らぬとは思うが、何者かが城に入って居れば正体を探れ。何もなければ、そのまま城を押さえよ」
「はっ」「承知」
鷹尾城の守備を稲田次郎兵衛隆元に、滝山城の攻略は渡辺半蔵守綱に任せる。
「残りは兵庫津へ向かう。将右衛門、お主は先行して三好の残党が残っておらぬか探れ」
「はっ、承知致しました」
前野将右衛門を兵庫津へ先行させ、安全かどうか、三好の残党がまだ残っていないか等を調べさせる。
まあ、何もないだろうけどね。




