205 赤丸と白丸
池田勝正に対して反撃開始しよう。
「皆の者!池田勢を一気に突き崩す!」
軍師として林助蔵を、護衛として奥田三右衛門、井上半右衛門、岸新右衛門、仙石新八郎、野中権之進を側に置き、谷野大膳、渡辺半蔵、前野将右衛門には一隊を任せ、敵兵を押し返す様に命じる。
大膳等の怒濤の攻めで、敵軍の勢いが止まった所を、俺が残る兵を引き連れ、突撃を敢行し押していく。
本当は突撃などしたくはないが、やっぱり攻勢こそがウチの家臣のウリみたいだからな。
そろそろ古参には、自分で兵を指揮する事を覚えてもらいたいんだけど…
史実でもあまり出世していなかった奴等には、酷な話なのだろうか?
いや、経験を積めば何とかなるはず!
全員とは言わないが、一人か二人くらいは、頑張って欲しい。
いつもの力押しを命じると、途端に力を発揮する奴等の何と多い事。
鳥居四郎左衛門、本多三弥左衛門、雨宮十兵衛、可児才蔵、加治田新助、一柳市介といった脳筋共が暴れ回る。
だが、ウチの部隊が急に暴れだしたのが気に障ったのか、敵の圧も強くなる。
それに負けるようなウチの家臣でもないけど。
逆に敵を圧する勢いで、更に押し返していく。
しかし、ウチの脳筋共が前に出て敵を押し返し始めた時、いつの間にか敵の一部隊が家臣達の間をすり抜け、俺の近くにまで迫っているのが見えた。
何で俺を狙うかなぁ…普通、親父や権六殿だろ?
仮に俺を討てても、大勢には影響ないだろうし、お前等も討ち死にする確率が高いだろうに…
「殿!此処は我等が!」
護衛の野中権之進が小者を連れ、敵を防ごうと飛び出していく。
慌てて岸新右衛門と仙石新八郎も権之進を追う。
「三右衛門!お主も権之進を手助けせよ!ここまで抜けてきた奴等だ、油断するな!」
敵に飢えたウチの脳筋共の間を抜けて此処までやって来た抜け目のない奴等だ。
敵部隊を率いている奴は、そこそこ目立つ赤い丸が描かれた甲冑を着ていて、何だか強そうな顔付きをしている。
権之進等だけでは少し不安なので、三右衛門にも加勢させる。
すると案の定、権之進は敵の指揮官に打ち倒されたが、新右衛門と新八郎が慌ててフォローに入った為、討ち取られずに済んだ。
危ない危ない…こんなところで家臣を失う訳にはいかない。
しかし、敵部隊より一人が抜け出して、こちらへ向かってくる。
「貰った!」
叫びながら槍を振るってくるが、流石にその程度の腕では俺の首は取れないぞ。
「させるか!」
「邪魔だ!」
残る護衛の井上半右衛門が相手の槍を防ぐが、力負けし打ち倒される。
敵は倒れた半右衛門を無視し、俺を狙って槍を振るうが、こちらも槍を相合わせて防ぐ。
おお!結構力強い!
俺も十七歳になって体も確りしてきて、単純な力だけなら織田家中でも強い方だと自負があったのだが、大体同じくらいの強さかもしれない。
力勝負をしながら相手の顔を見ると、権之進等が相手してる奴と全く同じ顔!
兄弟?双子?影武者?そっくりさん?
甲冑も同じで、こちらは赤い丸の代わりに白い丸が描いてある。
相手の胴に蹴りを入れて一旦離れ、今度はこちらの番だとばかりに、腰や肩に捻りを加えて、思いっきり槍を相手に叩きつける。
相手はそれに槍を合わせて…手を放した。
相手の槍は弾き飛んでいったが、抵抗が無くなったせいで俺の体が泳いで体勢を崩す。
やっべー!
相手を見ると、既に刃渡り1mはある太刀を引き抜いている。
なげ~よ!後ろに下がれないやん!
仕方ない、此処は前に突っ込んで鍔元で受ける!
甲冑着てるし、深手は負わないよな?
槍を手放し、斬られるのを覚悟して…いや、甲冑で止まる事を祈って、なるべく切れ味の鈍い鍔元の方で太刀を受けるよう、体当たりすべく突進する。
だが俺は、太刀に斬られることもなく体当たりに成功する。
相手を組敷き、脇差を抜いて突きつける。
「殿!御無事に御座いますか!」
助蔵の声に振り向くと、どうやら相手の太刀は助蔵の槍によって防がれた為に俺へ届く事はなかった様だ。
「助かったぞ、助蔵!」
「無茶をなさいますな。肝が冷えましたぞ」
うん、俺も…
「なに、お主が居ればこその無茶よ。現にお主が太刀を防いでくれたであろう?お主が居らなんだら、素直に逃げておったわ」
びびっていた事を隠しつつ、お前が居たから安心して無茶が出来たんだと、助蔵を持ち上げておく。
さて、権之進の方はどうなったかな?って、ヤバイ負けそうになっとる!
権之進は倒れ、新八郎と新右衛門は膝を突き、辛うじて三右衛門が防いでいる。
急いで助けに行かないと!
助けに行こうとしたその時、敵軍より鐘の音が響く。
敵の動きから、恐らくは退却の合図なのだろう。
途端に敵の動きがおかしくなる。
しかし、赤丸の男は、そのまま3人を討ち取ろうと槍を振るい続ける。
逃げ切る自信があるのか、討ち死にを覚悟しているのか…
面倒くせ~。
でも、このまま居座られると、新右衛門達も殺されるかもしれないし…
「おい、其処の方。撤退の合図が出ておるのではないのか?このまま我等と打ち合ったとて、負け戦ゆえ、大した手柄にはなるまい。この者を連れ、さっさと退かれるが良かろう」
赤丸の男に、俺が倒した白丸の男を連れて逃げろと呼び掛ける。
「自らの手柄を捨て、我等に退けと申されるか」
「このまま戦えば、其方等は討ち取れようが、そこの家臣共も討ち取られよう。目を掛けておる者共故、ここで死なせるには惜しい。其方も、名も知れぬ者共と刺し違えるよりは、後に名のある将となった此奴等に討たれた方が良かろう?此処は退け。後に機会あらば存分に打ち合おうぞ」
こいつら、池田勝正の家臣だろ?
この後、織田家に降るんだから、俺の家臣の命と引き換えにしてまで、討ち取る必要はないだろう。
「…良かろう!此処は退こう!其方等も命拾いをしたな!主に感謝する事だ!」
少し考えた後、赤丸の男は新右衛門達に捨て台詞を残し、白丸の男を連れて逃げていった。
理由は分からんが、敵が撤退してくれて助かったな。
お陰で新右衛門達を殺されずに済んだ。
俺もヤバかったしな。
助蔵と三右衛門には後で褒美をやらないとな。
しかしこの戦い、ウチは全く良い所がなかった。
最初は敵に押され気味だったし、最後は俺の所にまで敵の侵入を許している。
反省すべき事が沢山あるが、家臣の給料を抑えられて良かったと考えよう。
この戦いの結果にガックリしている時に、ちょっぴり給料アップすれば、不満もないだろう。
俺も大戦での部隊指揮を経験したかったのだが、次の機会に持ち越しか…ちょっと不安だな。
来年辺りに南伊勢を攻めるだろうから、その時には頑張ろう。
取り敢えず、無傷な家臣共には追撃を命じ、俺は敵軍の撤退の理由を調べてみる。
撤退の理由は、こちらに援軍が来たからだった。
三好家は、後方から伊丹家の軍勢が現れたので、勝ち目なしと急いで撤退を決めた様だ。
でもこれで、三好家の畿内からの撤退は決定的になった…よね?




