21 そうだ!熱田へ行こう!
「では、後のことは任せたぞ」
「父上も御武運を」
親父は、家臣たちを連れ急いで清須へ向かっていった。
他にも、稲田景継、平野長治、山田宗清、安孫子忠頼、堀尾泰晴、方泰も出陣だ。俺ではなくて親父の家臣だしな。
お前ら死ぬなよ。生き残れるかどうか分からんからな。
稲田植元は、今回は留守番になった。兄弟ともに討ち死には避けたいという事だろう。
と、いうわけで、勿論留守番な俺だが、加藤清忠に刀を注文しているので、受け取りに行きたい、ついでに熱田に戦勝祈願もしたいと、爺ちゃんに願い出る。
しつこく戦場には行くなと念を押されて、熱田から東には行かないと約束して、許可を貰った。本当に桶狭間とかには行かないよ。熱田に行くだけだよ。
お供に、稲田太郎左衛門植元、山田八郎左衛門宗重、堀尾茂助吉晴、増田仁右衛門長盛、加藤喜左衛門清重、兼松又四郎正吉、安食弥太郎重政に、年齢的に少し迷ったが、稲田梶之助、山内匠作、森小三次も連れていく。まあ、俺より年上だけどな。
十代だけの楽しい小旅行だな、俺は九歳だけども。
体格だけなら、匠作や小三次よりはデカイが。
まずは、中村の加藤清兵衛のところへ刀を受け取りに行く。
刀を打って貰ったのは、深い意味が有るわけではない。
この縁で将来あわよくば加藤清正をスカウト出来たらいいなぁ、という布石と、加藤清正の父親の打った刀があれば、未来で有形文化財くらいになるかな?くらいのミーハーな思いからだ。
だから、加藤喜左衛門が仕官した事で重要ではなくなったのだけど、将来もしかしたら加藤家の家宝になるかもしれないからな、うん。
刀を受け取り、ゆるゆると熱田へ向かう。
熱田でお参りをして、この戦いで無事に生き延びつつ、手柄をたてて、報酬を沢山貰えるように祈る。
そろそろ、桶狭間の決着が着いただろう頃合いに熱田の加藤家に挨拶して、存在をアピールしておく。
あとはしばらく待つだけ。
いつ来るかまではわからないので、見張りを立てて、沖合いに舟が見えるのを待つ。
待つ事しばらく、舟が見えたと連絡が届く。
「よし、戦支度をせよ」
と、皆に命令をする。
毎日、なにをのんびりしているのかと、思っていただろう供の者達は、慌てて支度をはじめる。
「何事ですか、小太郎様」
年長の稲田太郎左衛門が皆を代表して聞いてくる。
「荷ノ上のくそ坊主が、駄賃欲しさに攻めて来たのであろうよ」
すると嬉しそうに、兼松又四郎が、
「熱田参りに来て、早速御利益が御座いましたな」
みんな、うんうんと、頷いている。
荷ノ上のくそ坊主こと、服部友貞は、尾張海東郡の荷ノ上を占拠している僧で、すぐ隣には長島の願証寺があり、なかなか手を出せない。
だが、桶狭間の戦いに参戦しようと舟で向かったはいいが、到着前に今川義元が討たれた為引き返している。
その帰りに、ついでにとばかりに熱田湊に攻撃を仕掛けて、ボロ負けして逃げ帰っている。
その事を知っている俺は、有難く利用させて貰う事にしたのだ。家臣の給料を支払うために。そして、今後の工作資金にするために。
何よりも俺の初陣死亡フラグをへし折るために!
別段神仏を信じてはいないが、これも気の持ちようだ。
これが初陣でいいのかはわからないが、自分がフラグをへし折ったと信じれば、少しは気が楽になるはず。
本当は一度も戦に出なければいいのだろうが、そんなことは出来ないだろう。廃嫡されて出家すれば別なのだろうが、流石にそれは…
親父たちの討ち死にを回避出来なくなるしな。
そのために前以て、加藤図書助殿に俺達熱田に居ますよ、手伝いますよアピールをしておいた。
「仁右衛門!図書助殿の所へ走り、詳細を伝えて参れ。わかっておるな?」
「はっ!」
増田仁右衛門は、熱田の町へと駆けていく。
「武士が金勘定など」という考えの者の多い中、その価値のわかる仁右衛門の存在は有難い。
勝手に参戦しても、報酬が貰えなければ意味がない。
ちゃんと参陣を認めてもらい、戦後に正当な報酬を貰わなければ!
頑張って交渉しろよ、仁右衛門!お前の給料もかかっているぞ!




