200 弓の名手
芥川城に対しての降伏勧告を、嘗て小笠原長時の家臣であった尾藤源内に頼む。
だが予想通り、城主である三好長逸も小笠原長時も降伏を拒否した。
仕方ない…作戦パート2。
今度は逆に小笠原長時を煽る。
源内の息子である又八と甚右衛門に、小笠原長時の悪口を言ってもらう。
「大層な強者と言われておるが、どうやら買い被りであった様だ!その様子では弓馬の腕も大した事はあるまい!」
尾藤兄弟の煽りが続いているが、果たして出てくるかな?
プライドが高い小笠原長時なら、格下に煽られれば怒り心頭で出てくるんじゃないかな?
「小笠原流の弓術というのも、実は大したものではないのではないか?!」
こら、甚右衛門!長時の悪口は良いけど、小笠原家への悪口は止めなさい。
後で拗れると面倒だからな。
やがて城門が開き、一軍が飛び出してくるが、小笠原家の三階菱の旗が見える事から、やはり小笠原長時が釣れた様だ。
「では、鵜八。行け!」
大島鵜八に小笠原長時の撃破を命じる。
「信濃守の首、殿ではなく、本当に某が取ってよろしいので?」
鵜八が、俺の手柄にせずともよいのか聞いてくるが、勿論構わない。
「弓の名手である信濃守を俺が槍で討ち取るよりも、我が家の弓の名手である鵜八が、同じ弓で討ち取った方が面白かろう?」
ニヤリと笑い、鵜八を見つめる。
「それほどの御信頼を頂けるとは…必ずや殿の御期待に応えまする!」
鵜八は、感動でうち震えるのを堪えている様な面持ちで、気合いを漲らせ戦場へと向かって行った。
ふぅ、と安堵の溜息を吐く。
鵜八は俺に気を回さずに、長時を射殺して欲しい。
武力だけなら信玄以上とか言われる事もある小笠原長時の相手なんかして、逆に討ち取られるリスクを負うのなんてノーサンキュー!
もっと有名で弱い奴をお願いします。
大島鵜八vs小笠原長時の戦いだが、別に鵜八に一騎討ちを挑めと言っている訳ではない。
鎌倉時代じゃあるまいし、騎馬に乗ってすれ違いざまに弓を射ち合うなんて事はさせないぞ。
時代遅れな上、相手が有利なだけだし…
隙を見て射殺せばいいのだ。
ちょっと卑怯かなとも思わないでもないが、大事なのは弓の名手である小笠原長時を、同じく弓の名手である鵜八が射殺すという事だ。
後は尾ひれを付けて、鵜八が小笠原長時に、弓の勝負で勝ったと噂を流せばいい。
この勝負自体は攻城戦の勝利に必要ないけど、相手にプレッシャーをかける為にも、鵜八の名声を高める為にも、小笠原長時には役に立ってもらおう。
一色龍興の時には、死体が川に沈んでしまって手柄を公表出来なかったから、ここで存分に活躍を見せつけてもらいたい。
どうせ、小笠原家に恨まれるとしたら、実際に射る鵜八だろうしな。
挑発に乗って、兵を引き連れ、怒り心頭となって先頭をひた走る小笠原長時。
なんだろう…策通りに出てきたのは良かったのだが、そんなに討ち取られたいのだろうか?
史実の可隆も、あんな感じで突っ込んでいって、討ち死にしたんだろうか…
気を付けよう…
敵の正面で弓を構える鵜八。
そして、その背後にウチの家紋である鶴の丸の旗。
その隣に、こっそりといる俺。
さて、小笠原長時には、生け贄になってもらいましょう…なったらいいな…
プライド高いらしいから乗ってくれるよね?




